これからの時代を生き抜くために必要な力は何か。韓国を代表するライティング・コーチのソン・スッキさんは「ハーバード大学では150年以上前からライティングの教育をしている。AIが身近にある現代こそ、思考力を鍛えるライティングが重要だ」という――。

※本稿は、ソン・スッキ著、岡崎暢子訳『作文宿題が30分で書ける! 秘密のハーバード作文』(CCCメディアハウス)の一部を再編集したものです。

パソコンとノート
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論理的思考力のある子は小4以降で頭角を現す

「ロボットは東大に入れるか?」。2011年、東京大学に入学できるほどの十分な学力を携えた人工知能ロボット「東ロボくん」が入学試験に挑みました。日本が生んだ人工知能(AI)のエキスパート、新井紀子教授がプロジェクトを指揮したユニークなこの挑戦。その結果はなんと、不合格! 以降、4回のリベンジもむなしく、結果はいずれも惨敗。ロボットの挑戦は2016年についに凍結となります。

「東ロボくん」が東大入試に失敗した理由として、新井教授は「読解力不足」を挙げています。「人工知能ロボットは、意味が理解できてこそ課題処理が可能である」というのが教授の導いた結論でした。加えて、「もし将来的に、人間が高度な読解力をベースとした判断ができなくなったときこそ、AI頼みになりかねない」と警鐘を鳴らし、子どものうちから読解力の育成に注力すべきだと強調しました。

読解力は、事実関係を正しく把握して論理的に導く力であり、ロジカル・シンキングという土台なしでは機能しない能力です。

小学4年生以降の勉強では、この論理的思考力が大きくモノを言います。論理的に考えて表現できる子どもは、そのくらいの年齢から学力で頭角を現し始めます。

さて、このあたりまで読み進めたみなさんは、そろそろ気になっているでしょうか? 「果たしてうちの子は論理的に物事を考えることができるだろうか?」「ロジカルな思考力を育てるにはどうすればいいのかしら?」と。

ハーバード大学は150年以上前から作文教育にこだわってきた

韓国で10万部のロングセラーとなっている拙著『150年ハーバード式ライティングの秘密』。小学生向けの本書のベースとなっているものですが、私がこの前作を書いた動機は、ハーバード大学のライティング術が取り立てて珍しかったからではありません。むしろ私が着目したのは、ハーバード大学という世界的な名門大学が、150年以上も前から作文教育にこだわってきたことのほうでした。ハーバード大学の学生は在学中ずっとライティングを学びます。1~2年生のうちは、専攻や学年にかかわらず必修科目に組み込まれているほどです。

ハーバード大学がこれほどまでに作文教育にこだわるのは、学生たちを社会の各分野でリーダーとなる人材に育成しようという狙いがあるためです。つまり、ハーバード大学は、リーダーに欠かせない卓越した思考能力を育成する手段として、ライティングを選んでいるのです。

ハーバード大学に限らず、世界中の名だたる大学が作文教育に力を入れています。欧米先進国では、企業も、役員以下すべての従業員のライティング教育に投資を惜しみません。コロナ禍を経験して身に染みたように、予測もつかない出来事や社会的変化の中で企業が生き残るには、社員一丸となって革新的に考え、コミュニケーションし合うことが重要なのです。そしてその中心にあるのが論理的な思考力というわけです。思考力を育てるのに書くことほど適したものはないという理由から、ライティング教育に熱心なのです。