1、2年かかることもざら

一度パニック発作が出て怖い思いをした場所には、二度と行きたくないと思うものです。しかし治療のためには、自分に「あの時とは違うから大丈夫」と言い聞かせながら、少しずつ何度もトライして、「大丈夫だった」という成功体験を積み重ねていかなくてはなりません。たとえば電車に乗ることに恐怖感がある場合、まず各駅停車の電車に、ひと駅分乗ってみる。それができたらふた駅分……と、少しずつ距離を延ばしていきます。

何度かうまくいっても、また発作が出てしまうこともありますし、一進一退を繰り返しながらの治療になります。医師は、本人の様子を見て薬を処方しながら応援します。こうして、少しずつ苦手な場所に慣れていくというプロセスは、病院の心理士などの専門家のアドバイスを受けながら進める必要があります。病状に応じてステップの区切り方を二人三脚で決めていくことが重要だからです。自己判断で取り組んでは、ステップの大きさを見誤ることもありますし、うまくいかないときに心が折れてしまいやすいので、注意してください。

パニック発作の頻度を減らすだけなら、服薬や生活習慣の改善で、正味3カ月ぐらいでコントロールできるようになる可能性がありますが、それですぐに毎日会社に行けるようになるわけではありません。そこから恐怖感を乗り越え、苦手だった環境に慣れて社会活動ができるようになるには、1年、2年とかかることもざらです。

パニック障害を抱える部下がいたら

産業医をしていると、上司の立場の人から「パニック障害を抱えている部下がいるが、どうしたらいいか」という相談を受けることがあります。

パニック障害は非常につらい疾患ですが、周りからは軽く見られることも少なくありません。発作自体は10分~20分くらいでおさまり、その後は仕事に戻れる人も多いため、周りからは「気の持ちようなのではないか」「それくらい我慢できないのか」と、根性論を持ち出されたり、発作が出ると「またか」と嫌な顔をされたりすることもあるようです。

上司までもがこうした対応をするのはもってのほかですし、ほかの人がそうした対応をすることのないよう、上司は心を配り、常に部下の「味方」でいてほしいと思います。不安やストレスは回復を妨げ、症状を悪化させる可能性があります。できるだけ、急き立てたりせず、締め切りに余裕を持たせるなどの、配慮をするようにしてください。

部下がパニック障害だとわかったら、まず本人に、次の3点を確認してください。

①どんな状況が苦手なのか

どんな状況が発作の引き金になりやすいかを確認し、そうした状況を避けるためにどうしたらいいか、話し合います。

不快と感じる環境は、人によって異なります。たとえば大きい音が苦手な人なら、席を、プリンターなど急に音のする機械から離します。明るすぎる場所が苦手な人なら、蛍光灯の真下の席を避けるなど、できるだけ本人が落ち着ける場所を探しましょう。閉塞へいそく感のある個室が苦手であれば、できるだけ打ち合わせはオープンスペースでするようにしたり、オンラインで参加できるよう調整することなどが考えられます。しっかりとヒアリングし、話し合って対策を考えてください。