「平屋の賃貸はすぐ決まってしまいますよ」と推され
昨年の秋から賃貸の平屋に住み始めた斎藤貴士さん(仮名・29歳)も、「平屋住まい」をバカにされた1人だ。
「平屋に引っ越したと何気なく会社で話したら、『平屋なんて隙間風やばそうじゃない? これから寒くなるのに大丈夫か?』と上司に半笑いで言われてしまって……。上司が想像したのは、昔ながらのプレハブ平屋だったみたいです。『ほぼ新築同然のおしゃれな注文住宅なんです!』とムキになって言い返すのも馬鹿らしいので、僕もテキトーに笑っておきましたけどね……」
そもそも、斎藤さんはなぜ賃貸の平屋に越そうと思ったのだろうか。
「昨年子どもが生まれて、階段があるとしんどい場面が増えたのがきっかけでした。見つけたのは築3年の平屋物件で、外装も内装もおしゃれだし、床はこだわりの天然木。不動産屋でも『平屋の賃貸は最近すごく人気で、すぐ決まってしまいますよ』と推されたこともあり、勢いで決めてしまったんです」
埼玉の郊外で家賃は10万円と決してお得な物件ではなかったが、子育てのしやすさを最優先に考えて決めたと話す。
「最初の1、2カ月はワンフロアで楽だし、子どもに関するヒヤリハットも減ったし、とても快適だったんです。ただ日当たりが最悪なんですよ。平屋は日当たりがいいと思っていたのですが、3階建てと2階建ての戸建てに挟まれている我が家は、どの部屋も日中に光がほとんど入ってこないんですよ。
一日中電灯をつけていないと薄暗いし、洗濯物を干しても3階建の家ですべて陰になってしまって、いつまでも乾かない。毎日薄暗い部屋にいると、気持ちまでどんよりしてくるんですよね。とはいえ道路に面した家なので、カーテン全開も人目が気になってできないし……」
お互いの生活音を感じやすくなり…
そんななかで夫婦生活にも変化があったと斎藤さんは続ける。
「僕も妻も在宅勤務が多くて、基本的に家にいる生活なのがよくなかったんです。妻は仕事部屋で、僕はリビングの一角で仕事しているんですが、部屋が別々でも平屋だと結構お互いの生活音や存在を感じるんですよ。
オンラインミーティングの声なども聞こえますし、自分も不用意な音を立てないよう神経質になります。以前は1階2階で互いの仕事部屋を分けていたので、あまり気にならなかったのですが、相手の発するちょっとした物音や生活音に、すごくイライラするようになりました」
ストレスを感じていたのは妻も同様だったようで、引っ越してからは些細な口論が一気に増えたという。
「これ以上、言い争いが増えるとまずいという危機感があったので、在宅勤務の時は僕が外に出てカフェで作業することにしました。引っ越しも大変なので、あと1年ぐらいは頑張って住み続けようと思っていますが、家族との距離が物理的に近くなるって良いことばかりじゃないなと実感しましたね」
自分たちの生活スタイルに本当にあっているのかどうか。平屋に限らず、マイホームを選ぶ際には、その住居のメリット・デメリットをしっかり見定めて決めた方が良さそうだ。