ツボさえおさえておけば全部くまなく見る必要はない

広木 そうですね。ただそのインプットの質がやっぱり違うと思うんです。結局、われわれは相場というものを相手にしていて、それに対してアウトプットを出すということですから。素材が刻一刻と変わってくるから常に最新のものを仕入れていく必要はあります。ただ、やっぱり押さえるべきツボみたいのがあって、こことここさえ見ておけばあとは些末というか、全部をくまなく見なくてはならないということではないですね。

マネックス証券 
チーフ・ストラテジスト 
広木隆 

1963年東京生まれ。上智大学外国語学部卒業。1987年、大和証券に入社。その後、ファンドマネジャーに転身。富士投信投資顧問、フィデリティ投信、JPモルガン・アセットマネジメントなど、国内系、外資系の資産運用会社において、運用や商品の組成に20年以上携わったほか自らヘッジファンドを立ち上げ運用した経験も有する。2010年より現職。著書に『ストラテジストにさよならを』(ゲーテビジネス新書)がある。マネックス証券のサイト(http://www.monex.co.jp)にて、最新ストラテジーレポートを閲覧可能。©Takaharu Shibuya

楠木 その重要な情報がどこかというのは、1人ひとりのセンスなんですか?

広木 ええ。別に教科書に書かれているわけじゃないですからね。

楠木 同業者の方とか、実際にクライアントの投資家を見ていて、「あ、この人はセンスがあるな。この人はあんまりセンスないな」というのはわかりますか?

広木 それはわかります。

楠木 僕は自分で商売しているわけではないんですけども、「この人は商売センスあるな。この人はないな」って、割とすぐわかるんですよ。

広木 まさにそれがセンスということじゃないですかね。

楠木 思い込みといえばそれまでですけど。一義的な定義はできなくても、見りゃわかるみたいな。そんなフワフワしたもの評価できないし、そんなものを頼りに会社を経営できないよって言われますが、そんなことはなくて、普通にセンスがある人が見れば顔を見りゃわかるぐらいの明々白々さなんではないかと思うんですよね。広木さんは投資のセンスのある・なしでいうとどんなところを見てらっしゃいますか?

広木 やっぱり、発言の内容、スパッとキレがある発言かどうかですね。マーケットにおけるストラテジストの仕事とか、エコノミストの仕事って、あっという間の世界なわけですよ。景気がどうした、企業業績がどうした、金利がどうしたと。だからどうしたっていう話です。だいたいが当たり前のことです。それをいかにも針小棒大というか、延々とまわりくどく言うようなタイプの人が結構多いんですよ。それに対して、当たり前のことを軽いノリですぱっと斬ると不真面目だとか言われる。誰でもわかってるようなことを、相手は素人だと思っていかにも深刻そうに、大迎に言うような人はセンスがないなあと思いますね。

楠木 僕の場合はすごく単純で、話が出てくるかどうかですね。どんな商売にしたいのかと聞いたときに、「こうやって、こうやって、こうやったら、おもしろいんじゃないかと俺は思ってるんだけどさ」という話をまくしたてる人と、なんだかどこかで聞いたような正論というか一般論ばかりで、「俺はこうしたい」みたいなものが出てこない人、そういう話をするのが苦痛だというタイプの人がいます。前者のような人ですね、「あ、商売、向いてるな」というのは。後者の人は経営人材じゃなくて、担当者タイプかなと。ひどい場合だと、本当に経営者の立場でいながら担当者みたいな人がいますから。代表取締役担当者ですね。「こうやって、こうやって、こうしたい」みたいなものがないので、もう代表取締役という担当業務を粛々とこなしてますという。どうやったって、戦略が出てきようがない状態ですね。

広木 そうですね。今戦略というお話がありましたけど、ストラテジストにしろ、エコノミストにしろ、マーケットの分析なり、解説なりはするけれども、自分でマーケットを動かしているわけではないので、ある意味傍観者なんです。それですっかり評論家に徹してしまう人が非常に多いんです。でも私たちの仕事の核心は、予想を立てたり、解説をしたりすることではなくて、ストラテジーを出すことなんです。そのマーケットの分析なり、解釈はわかった。じゃあどうすりゃいいんだという、そこに対する答えはこれですというのを、出せるかどうか。

楠木 なるほどね。それは僕の仕事よりも実務に対するコミットメントが強いですよね。

僕の場合は「それって、ありですよね」とか、「それ、ないですね」とか言ってるだけなので気楽な立場です。

広木 いや、そんなこともないと思いますが。