もはや英語ができない社員は出世できないのか? グローバル化が不可避となった日本の企業では英語力は必須の能力となってきた。有力人事部が「英語と出世」の関係を語り尽くす。

グローバル人材の育成は10年かかる

【製造】英語ができることと、ビジネスで通用する英語力との間には相当の落差がある。実際に外国人と粘り強い商談を重ねて、うまく成功を収めるタフネゴシエーターの英語力を身につけるには経験と時間がかかる。最低10年必要だ。

【電機】そのレベルに達するには相当失敗を重ねないと身につかない。とんでもないロスを生むことになるが、失敗して悪かった点を振り返り、次はこうしようと考えることを繰り返すことで習熟する。また、上手な人のやり方をよく見て、真似をするのもいい。スポーツと同じだね。

【外資】タフネゴシエーターになるには、そもそもネゴシエーションの理論的知識があることが前提だ。なおかつ実践して痛い経験を積むこと。僕自身もずいぶん失敗し、へこんだよ。また、言葉がうまいだけではなく、動作のテクニックもある。たとえば、5人、10人も外国人がいる席での議論はどうも日本人は苦手だ。しかもその中にはネーティブではないインド人やアラブ人、あるいは中国人がいると、とにかく主張すれば勝ちだという話し方をする。逆にそのほうが歓迎されやすい。彼らを相手にするには、言葉のうまさや理論的整合性だけでは太刀打ちできない。立ち上がって言葉を遮る動作など、こちらの言うことを聞かせるテクニックがあるんだよ。こういうことは日本人同士で話していても身につかない。

【IT】確かに海外拠点と電話会議をしていると本当にわけがわからなくなるときがある。外国人がまくしたて、こちらがつけいる隙も与えない。しかも、なんで彼はこんなわかりきったことを話しているのかと思うことが多い。日本人同士なら5分ですむことが、バックグラウンドが違う人と議論する場合は、擦り合わせだけで30分ぐらいかかる。日本人同士の会議なら阿吽の呼吸でわかることが、外国人に理解させて、物事をまとめ上げるには相当の経験が必要だ。

【製造】実践的に使える英語を身につけさせるには、若いときから海外の経験をさせることだ。うちでは、コミュニケーション能力や財務とか事業戦略など全部について語れるぐらいの英語の実践的プログラムを用意し、集中的に勉強する機会を与え、海外法人に派遣している。

【外資】入社後はビジネスマナーを教えるのと同じように英語も教えないと育たない。ただ、個人的な経験を言わせてもらえば、会社がいくら教育しても、会社の金と時間を使っている限りはうまくならない。やはり切羽詰まって初めて覚える。話せるようにならなければクビだというぐらい追い込んで、自分の時間を使って勉強するように仕向けなければ絶対にうまくならないね。

【電機】うちは新卒採用後、2~3年目から海外拠点にトレーニーとして1年間出すことにしている。そして再び本社に戻し、国際的な仕事に従事させる一方、異文化研修などのグローバル研修を実施している。要は価値観の異なる海外の人材をマネージする技術を習得させることにある。その後は、管理職として海外赴任を繰り返すことで鍛える。それでも一人前になるには10年はかかるだろう。

【IT】海外に赴任させて経験を積ませることは大事だが、一緒に行く奥さんには気を使う必要がある。赴任先は昔のようにニューヨークやパリに行くわけではない。中国、インドネシア、ラオスといった新興国だ。奥さんが現地に適応できずにノイローゼになってしまうこともある。うちでは社員と奥さんと一緒に会食して、この奥さんは現地でやっていけるかどうかをチェックしている。

【製造】ストレス耐性の低い奥さんは難しい。奥さんと一緒に赴任し、離婚した社員がいる。しかも、その社員は再婚後、海外赴任し、また離婚している。さすがにそこまでいくと、本人の資質の問題だ。