イーロン・マスクの私学で教えていること

以下に列挙する学校の共通点は何だろうか?

1.NASAとGoogleが投資し、人工知能時代の支配者を作ることを目標にする「シンギュラリティ大学」。

2.人工知能時代のリーダーを育てるために講義を廃止し、新しい教育課程を取り入れているハーバード、スタンフォード、イェール大学のような世界最高の名門大学。

3.人工知能時代に適合した人材を育てるためにIT機器を禁じる教育課程を取り入れたシリコンバレーの私立学校。

4.イーロン・マスクが、シリコンバレーの私学教育では人工知能産業の第一人者、すなわち兆万長者になる方法を教えることができないとして、自分の子どもたちを皆中退させたあとに設立したプライベート私学「アド・アストラ」。

答えは、教育課程の重点が、哲学する人間を育てることに置かれていることだ。もちろん、程度の違いはある。

イーロン・マスクが建てたアド・アストラは、初めから哲学者の育成を目的にしているように見える。それくらい積極的に哲学を追究している。一方、他の学校はアド・アストラほどではない。

ロダンの「考える人」をかたどったオブジェ
写真=iStock.com/Mihaela Rosu
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体育・音楽・外国語の授業はない

アド・アストラの話を少ししておこう。この学校は、すべてが秘密に包まれている。イーロン・マスクが、世間に公開されることを望んでいないからだ。

しかし最近、この学校でどのような教育が行われているかが、少し明らかになった。シンギュラリティ大学の共同設立者であり、民間月探査プロジェクトで有名なXプライズ財団CEOピーター・ディアマンテスが、アド・アストラを訪問したあと、メディアのインタビューを受けたのだ。そして、アド・アストラの共同設立者兼校長であるジョシュア・ダーンも、インタビューに答えた。

ふたりが語ったアド・アストラは、次のとおりだ。

「イーロン・マスクの5人の子を含む31人の子どもたちが通っている。子どもたちの年齢は、7歳から14歳までで、平均年齢は10歳。シリコンバレーのIT技術、とくに人工知能技術の発達に合わせて毎年教育課程を作りかえる。学年は存在しない。代わりに存在するのは、チームである。

成績評価はなく、宿題もほとんどない。すべての教育活動は、ソクラテス式対話法で進められる。人工知能中心の未来社会で人類が直面する問題をシミュレーションし、これに対する解決策を哲学的対話と討論で導き出すのが教育の核心だ。

それに加え、起業家精神・リーダーシップ・数学・科学・工学・人工知能・ロボットなどについて学ぶ。そして、経済を学ぶために、校内では『アストラ』という仮想通貨が使われている。体育・音楽・外国語の授業はない」。