なぜ同じ球団に居続けようとするのか
しかしもっと広い観点で見れば、そもそも日本のプロ野球選手はなぜそんなに「移籍すること」を嫌がるのだろうか?
彼らは会社員ではない。「個人事業主」であり、自分の能力一本で球団と契約し、収入を得ているプロフェッショナルだ。求められるところがあれば、どこででも野球をするのが本筋ではないのか?
いまだに日本のプロ野球選手の多くは、あたかもサラリーマンが会社に入るように球団に入る。入団時に「球団に骨を埋めます」などと言う選手もいる。また引退後、退団せずに球団職員として残り、さまざまな業務に就く選手も多い。
それはあたかも年功序列、終身雇用が当たり前だった日本の会社のようだ。
確かに、以前は入団に際して「引退後は親会社の正社員としての身分を保障すること」を条件にプロ入りする選手がいた。そして引退後は親会社の管理職になった元選手もいた。
しかし現在は、引退後、球団に残った元選手の多くは1年ごとの契約の契約社員であり、正社員のような身分を保障されていない。選手が引退して球団職員になれば、その代わりに誰かが退職することが多いのだ。
筆者は長年「先乗りスコアラー」としてチームの勝利に貢献した野球人を知っているが、60歳を過ぎて突然契約を打ち切られた。「正社員ではなかったから、退職金が出るわけでなし、球団以外に知らないから、どうして生きていこうか本当に困った」と言っていた。
なぜ本来行使すべき権利を使わないのか
一般の企業であっても終身雇用は崩壊しつつある。サラリーマンであっても転職、起業、フリーランスが現実的な選択肢になる中で、なぜプロ野球選手の多くは球団にしがみつくのか? 移籍を嫌がるのか?
FA権を導入する際に、自動的にFAになることに反対したのは、球団だけではない。選手の側からも「身分が不安定になる」と反対の声が上がったのだ。
しかし、自由に他球団と交渉できるという、本来選手が当然行使すべき権利を使わず、球団に残る選択をするのは、自らの可能性を狭める行為に他ならないのではないか。
MLBでは毎年、100人を超す選手がFAになる。昨年11月のMLB発表では今オフは130人だった。その中には、ドジャース一筋16年、通算210勝の大投手、クレイトン・カーショウなども含まれている。
彼らは代理人などを伴ってここから球団と個別に交渉し、新しい活躍のステージへと進むのだ。メジャーリーガーにとってそれが「野球で生きる」ことだ。そしてニーズがなくなれば消えていくことも甘受しているのだ。