小児科医の成田奈緒子さんは、ひきこもりや不登校、育児不安など、さまざまな悩みを抱える親子に出会ってきましたが、相談に訪れる親のほとんどが、高学歴で社会的に成功している人たちだといいます。自分の成功体験から子供にも同じように育ってほしいと思うあまり、一歩間違えるとその熱意があらぬ方向へ暴走してしまうという「高学歴親」。彼らが陥りがちな「3つのリスク」とその対処法を語ってもらいました。
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私は、小児科医として臨床と基礎研究に長く取り組んできました。2000年頃、当時勤務していた2つの病院で小児心理外来を開設し、同時に発達障害者支援センターや児童相談所の嘱託医も兼務するなかで、ひきこもり、不登校、育児不安などさまざまな悩みを抱える親御さんと子どもたちに出会ってきました。
その経験をもとに、14年に子育て科学アクシスという子育て支援事業を立ち上げました。発達障害の疑いのある子や不登校になってしまった子、育児に悩む親御さんなど、さまざまな方が相談に訪れます。ここで紹介する事例は、プライバシー保護のため、内容に影響を与えない範囲で属性などを変えていますが、すべて実際に私が見聞きしてきたものです。
相談にいらっしゃる親御さんのほとんどが、高学歴で、社会的に成功している方です。自分の成功体験をもとに、子どもも同じように育ってほしいと思うあまり、子どもが失敗しないように過干渉となり、先回りしてしまう。
とはいえ、わざわざ予約を取り、時にご自身の仕事を休んでアクシスへ相談に来てくださるくらいですから、一生懸命子育てをしていることは間違いありません。しかし、一歩間違えるとその熱意があらぬ方向へ暴走してしまうのです。
勝手にがっかりする親たち
昨年1月に上梓した『高学歴親という病』(講談社+α新書)は、ありがたいことに多くの方に読まれて大きな反響もいただきました。本書では、少し刺激的に「高学歴親」をキーワードにしましたが、「大学全入時代」に突入した日本ではいまやほとんどが高学歴親であるともいえます。ただし、私がここで「高学歴親」と呼びたいのは、「学歴を非常に重要視する、大卒以上」の方々です。
では、「高学歴親」は子育てにおいて、どのような落とし穴にはまってしまうのか。高学歴親にあたる方々はきっと、お子さんがレベルの高い中学高校へ進み、休まず元気に登校し、そのまま高い偏差値の大学へ進学して、名の知れた企業に就職することこそが、子育ての“成功”だと考えているのでしょう。
ところが、中学受験で失敗したり、志望校に合格してもうまく学校に馴染めずに不登校になったりすることは、決して珍しいことではありません。にもかかわらず、「こんなにお金と時間をかけたのに、なぜ?」と、どこかで躓いてしまった我が子を自分の尺度に当てはめ、勝手にがっかりしてしまう。そんな親御さんが増えてきたように思います。