わが国のボクシング界は「井上尚弥の時代」の真っただ中にある。年間最優秀選手賞を受賞すること6度(5年連続)。これは具志堅用高の5度を抜いて歴代最多であり、2023年もこの記録を更新するのはほぼ確実である。“ほぼ”というのは年末にもう一試合予定があるからで、それはマーロン・タパレスとの世界スーパーバンタム級チャンピオン統一戦だ。これに勝てば比国人ボクサーが保持する2つのタイトルを加えて、世界の主要4団体のタイトルを独占する。勝負事に絶対はありえないとはいえ、井上が敗北を喫する場面は想像もつかない。
12年に19歳でプロ転向して以来、25戦して全勝22KO勝ち。しかも6戦目で世界L・フライ級チャンピオンになって以降の20戦はすべて世界タイトルの懸かった試合である。これは日本人ボクサーとして2番目に多い(最多記録は井岡一翔の21戦)。
日本人史上初の「4タイトル同時制覇」
30歳を迎えた井上尚弥は「記録」にも「記憶」にも残るボクサーとなった。1年前にも本誌で取り上げたが、その後、井上は2度、いずれも有明アリーナのリングに上がって快勝している。22年12月13日、ポール・バトラー(英国)を終盤の11回KOに仕留め、バトラーが保持していたWBO世界バンタム級タイトルを獲得。これでこの階級の主要4団体のチャンピオンベルトをすべて手に入れた。日本人王者の中で4タイトルを同時に手にしたのは井上以外にいない。
その1カ月後には4つのタイトルすべてを返上し、1階級上のスーパーバンタム級への転向を表明。そして7月25日、WBCとWBOの2本のベルトを保持する王者スティーブン・フルトン(米国)に挑戦。これを8回TKOで下し、自身4階級目のチャンピオンとなった。これは日本人世界チャンピオンの最多タイ記録である。弟の拓真がこの3カ月前に兄の返上したWBAバンタム級王座を獲得しており、尚弥がフルトンを倒した瞬間に井上家の悲願だった「兄弟同時世界チャンピオン」も達成した。