ストーリー性にあふれた開発
この地の開発は当初からストーリー性にあふれたものだった。4万㎡もの広大な土地は国有地だったこともあり広大な草地だった。開発プランを練る間、放っておくと草は伸び放題。草刈りに手間取っているのを助けたのが、タレントの清水国明さんが瀬戸内海の島で飼育していたヤギだった。社員たちは総出で島までヤギを借り受けに行き、放牧された数十頭を捕獲して、立川に運んで放し飼いにしたという。効果はてきめん。地元ではしばらくの間、立川駅近にヤギがいる珍風景となっていたのだった。
同社は単なるオフィスや商業施設といったハコモノ開発を選択せずに、ウェルビーイング(Well Being)な街づくりを掲げて全く新たな街を創り上げている。
特徴的なのは敷地全体に人工地盤を新たに敷設、車は地上部分に駐車場を設けて集約し、人工地盤上の中央部分に1万㎡に及ぶ広大な広場を設置。広場の周囲には地上4階建て程度の9つの施設を設えた。この土地の容積率は500%なのだが、そのうちの150%しか建物面積に利用せず、350%を「空積率」と称して空と大地を確保するという、従来のデベロッパーやゼネコンでは思いもつかぬ発想で開発を行っている。
人が中心で空の広い街、立川
実際にこの街を歩くと人が中心であることを実感する。建物は広場や街路に向かって閉ざされるのではなく、「縁側」というコンセプトのもと、テラスやギャラリーを設け、開口部には横引きの折り戸や引き違い窓を多用。歩行者との間で違和感を覚えることなく建物内部と外部をつなげている。
また街路全体に多摩地区で自生する樹木や草花を配置し、ビオトープを設けてベンチに腰掛けて多摩の豊かな自然を体感できるようにしている。
広場を眺めながらのカフェやレストラン、またこの街で働くためのオフィスもその存在を消すかのようにひっそりと佇んでいる。この街ではとにかく空が広いのだ。
このほか客室数81室の滞在型ラグジュアリーホテル「SORANO HOTEL」や音楽他の多目的ホール「TACHIKAWA STAGE GARDEN」を開設。エリアを楽しみ、エンターテインメントやカルチャーを自由に発信できる施設を設けている点も特筆される。まさに人生をどう楽しく生きるかというライフスタイルの提言が敷地内の随所に垣間見えるのだ。
中央にある広場には立飛ホールディングスの歴史を汲んだ滑走路を模した遊歩道がクロスに伸び、その先が緩い階段となって音楽ホールの屋上に届く。それはまるで滑走路を飛び立つ飛行機をイメージしているかのようだ。階段と並行してカスケードがあり、水の音を聞きながら屋上に足を運ぶ。屋上はデッキになっていて昭和記念公園を見晴るかすことができる。