粗食は見た目年齢を上げ、健康も害す
一方で、そうした健康分野の本を読みたいと思っている高齢者たちは、書かれたものを素直に信じ込みます。
例えば、「高齢者は粗食にしたほうが健康によい」と書かれていたら、それを実行してしまうのです。
皮肉にも、『ニッポン無責任時代』という映画で植木等が演じた昭和1ケタ生まれの平均以降の世代は、それ以前の高齢者よりも知的レベルが高く、戦後の科学万能信仰で育った世代でもあるがゆえに、ニセ科学にもだまされやすいということになるでしょう。
ここで言う粗食とは、朝はごはんにみそ汁、納豆、漬けもの。昼はそばかうどん、夏ならそうめん。夜は焼き魚と野菜の煮物、冬なら鍋もの、といったイメージです。
こういう食生活が「健康によい」と信じている人も多いと思います。でも、このような食事を続けると、見た目年齢を老けさせることになってしまうのです。
今例にあげたメニューは、たんぱく質が圧倒的に不足しています。見た目年齢が老けている人はたんぱく質が足りていないのです。
肉を食べないと身長が伸びない
たんぱく質を摂らないと身長も伸びません。明治、大正の頃、一般庶民は肉を食べる機会があまりありませんでした。だから欧米に比べると、体が小さかったのです。
日本人が肉食を始めたのは、明治時代からだと言われていますが、明治期に栄養に関して、こんな論争がありました。
一方の論者は文豪・森鴎外(本名・森林太郎)。陸軍の軍医でもあった森は、東京帝国大学を出て、ドイツに留学して医学を学びました。
もう一方の論者は、高木兼寛という海軍の軍医で、彼はドイツではなく、イギリスに留学して医学を学んでいます。
森と高木が論争になったのは脚気の原因は何かということでした。
現在では脚気はビタミンB1欠乏症で起こることがわかっていますが、当時は原因がまだ特定されていなかったのです(鈴木梅太郎がビタミンの存在を発表したのが1911年、明治44年)。
脚気は重症化すると、心不全や末梢神経障害を起こす病気です。明治時代の軍隊には、多くの脚気患者がいて、全兵士の3~4割が罹患していたと言われています。
高木はイギリスで臨床医学を学びながら、イギリス人が肉をいっぱい食べていることに注目しました。
イギリス人の体が大きく、脚気も結核も少ないのは、肉を食べているからに違いないと考えたのです。