環境省は狼の増加を「好ましい展開」

危機感を募らせた畜産組合では、狼の駆除を申請するが、それがなかなか認められない。保護柵の増強など、射殺の前にするべきことがあるはずだというのが環境省の考えだ。なお、防護を完全にしても被害が出た場合には、羊なら被害1頭当たり約300ユーロ(州によって差がある)の補償金が出るという。

そこで農家では、広大な牧草地に何キロにもわたる柵を作り、通電し、さらに赤外線望遠鏡を購入したり、センサーを仕込んだりするが、今度は、それらを常時完璧に保つことにエネルギーを要する。なお、そこまでしても、なぜか狼はどこかから必ず忍び込んできて、家畜を殺す。ちなみに家畜がやられても、防護に不備が見つかると、補償金が差し引かれたり、もらえなかったりするという。

一方、環境省のホームページを見ると、こう書いてある。

「21世紀初頭より、狼の数がすごい勢いで増している。これは、世界、およびドイツで、生物の多様性が危機にさらされていることを思えば、好ましい展開であり、厳格な狼の保護政策が効果を上げている証拠だ」「狼の数の増加、および、狼の生息地の広がりというポジティブな傾向は、今後も続く」

要するに、狼の増殖は環境省にとっては好ましいことらしい。環境省を仕切っているのは緑の党だ。

オオカミ
写真=iStock.com/Thorsten Spoerlein
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さらに解決策は「ヴィーガンになればいい」

今年の6月、その緑の党のレムケ環境相が、狼問題についての多数の苦情を受け、協議の会を設けた。ところが、そこに招かれたのは、畜産農家の他は自然保護団体ばかりで、それも、過激な動物保護団体Peta(動物の倫理的扱いを求める人々の会)までがいた。一方、森の実態について一番よく知っているはずの狩猟連合会は除外。鉄砲を振り回すような人たちはお呼びではなかったのだ。

レムケ環境相は狼の駆除には絶対反対で、自然保護団体ももちろん反対。狼との共存こそが自然のあるべき姿と信じており、射殺などあり得ない。それどころかPetaの提案する解決法は、「ヴィーガンの食生活」だった。

ヴィーガンというのは、動物に関するものは、肉も魚も卵も牛乳もチーズもすべてNGで、革靴もウールのセーターも着ない。つまりPetaによれば、問題は狼でも羊でもなく、私たちが肉やチーズを食べることなのだ。こういう思想の持ち主と、ドイツの環境相は心を分かち合っている。