NHK連続テレビ小説の第109作目となる『ブギウギ』の脚本を務めた、足立紳(51)。今年9月には朝ドラに先駆けて、実話を交えた青春小説『春よ来い、マジで来い』を上梓した。
小説家としても活動する彼に、脚本を務めるまでの経緯、笠置シヅ子の物語を書こうと思い立った背景、朝ドラにおけるコンプライアンスなどについて、話を聞いた。(全3回の1回目/続きを読む)
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見たことのなかった朝ドラ あえて言うなら「清廉潔白で正しい世界」
――どのような経緯で脚本を務めることになったのでしょう?
足立紳(以下、足立) 『ブギウギ』の制作統括をやってる福岡(利武)さんから声を掛けられたんです。僕が脚本と監督をやった『14の夜』(2016年)を観てくれていたことがきっかけで知り合ったんです。
2021年の10月あたりに、福岡さんから「今度、大阪に転勤になります。で、ちょっと頼みたいことがあるんですけど」といった感じの電話があったんです。
――「頼みたいこと」が朝ドラだったと。これまでにも朝ドラの話が来たことは?
足立 その何年か前にも1回、NHKのほかの方から「朝ドラやりませんか?」と声が掛かったことがあって。そのときは「足立さん以外に候補が何人かいて、その中から選ぶことになるので、どうなるかはわからないんですけど……」ってことも説明されて、「へー、そういうもんなんだ」と。
――選ばれなくて、残念でしたね。
足立 そういうのは、映画でもドラマでもよくあることなのでぜんぜん落ち込まなかったです。実は僕、朝ドラを1回も見たことがなかったんですよ。実家の誰かが朝ドラを見るってこともなかったし。
だから、朝ドラの凄さみたいなものがわからなくて。妻も全然見てないけど、NHKだからお金の払いもちゃんとしてるだろうし、知名度も上がるだろうし、映画の企画も通りやすくなるかもしれないから「絶対にやれ!」と詰め寄られました。ただ、選ぶのはNHKなんでね。
――朝ドラに対するイメージも、とくになにかあるわけでもなく?
足立 僕がこれまでに書いていたものとはまったく違う世界、といったイメージでしたね。あえて言うなら、清廉潔白で正しい世界といいますか。頑張る人、頑張れる人を描く世界で、僕はその真逆の人を描いてきたので。
なので、率先して見ることもなかったです。朝ドラに限らずテレビドラマを実はあまり見ていなかったです。ただ、NHKでは単発ドラマの脚本もやっているし、去年は全10回の『拾われた男』というドラマをも書かせていただいたこともあって。ドラマに関しては、NHKで書くことが多くて、民放ではほとんど書いてなくて。それでも朝ドラに関しては未来永劫関わることはないと思っていましたから、数年前に初めて連絡あったときは本気でビックリしましたね。
でも、まわりからは「意外と朝ドラに向いているんじゃないか」と言われることはあったんです。福岡さんとは違うNHKのプロデューサーや小説『春よ来い、マジで来い』を連載していた「キネマ旬報」の編集者の方に、「朝ドラで、家族や子供の話を書いたらいいんじゃないか」みたいなことを言われていて。
キネ旬の方いわく、「朝ドラは、主人公の子供時代が絶対に出てくる。足立作品はいつも、子供がいきいきとしているし、女性の描かれ方も逞しく、いつも共感していたので、面白くなるんじゃないか」ってことでした。