例えば上級生が最下級生である1年生に使い走りをさせます。「おい、たこ焼き買ってこい」と言われれば1年生は黙って買いに行きます。すると上級生はお金を出して「お前も食え」とお裾分けしてくれます。こうして寮内の秩序が保たれていました。
ところが私は後にアスペルガー症候群(発達障害の一つで今はASDという診断名に変わった)と診断されました。アスペルガー症候群には、人の気持ちがよくわからず思ったままをズケズケ言ってしまう特徴があります。先輩に使い走りを言いつけられると「なんで僕が買いに行かなきゃいけないんですか?」などと口答えします。当然「こいつ、太え奴だ」と目を付けられます。
それでも学力やスポーツ、芸術など何か突出した得意分野があれば一目置かれることもあったでしょう。でも田舎の小学校では成績優秀でも有名進学校に入れば後ろから数えた方が早くなってしまいます。勉強がまるでわからず、運動も苦手、人とのコミュニケーションも不得意となると周囲に軽く見られます。
上級生に目を付けられた僕は何かと理由をつけてしごかれました。態度が悪いといって床に正座させられる。ほうきの柄を並べた上に正座し、太ももの上に重い百科事典を重ねて抱かされる。江戸時代の拷問のマネです。先輩のすることは絶対ですから誰の助けもありません。
中学生は体が急成長する一方で精神的にまだ幼く、自己中心的で他人への思いやりに欠ける部分があります。そういう部分が僕に降りかかったのでしょう。そんな奴なら何をしても構わないと思われたのかもしれません。そして事件は起きました。
二段ベッドの上の先輩が襲ってきた
加害者は寮の1年上の先輩でした。同じ部屋の同じ二段ベッドの上が先輩、下が僕。なぜ僕に目を付けたのかはわかりません。性欲が昂進する時期ですから性のはけ口を求めていた、ということはあるでしょう。ネットもDVDもない時代、それは普通“エロ本”で解消されるものでした。
実際、寮内の至る所にそれはありました。建前上は寮則で“禁止”されていましたが、半ば公然と存在し、みんなそれで“解消”していました。
では、あの先輩はなぜ僕を狙ったのか? 今考えると、性欲それ自体より暴力で人を支配することに快楽を覚えたのではないでしょうか? あの時、先輩の真下のベッドにいた僕は寮内で孤立していて、しかもひ弱。“襲いやすい”相手だったんだと思います。