また大きな問題として被害者を「女性」に限っていることもありました。男性が性被害を受けてもやはり「強制わいせつ」罪にしか問えない。これを正すべきではないかという議論があり、私もそう考えていたのです。その後、こうした矛盾は刑法改正で強姦罪を「強制性交等罪」へ、さらに「不同意性交等罪」へと定義を変えたことでかなり解消されました。 

男性の性被害に関心が強かった理由

性犯罪への問題意識について意見を交わした後、弁護士と別れ一人歩きながら、ふと思いました。なぜ私はこの問題に関心があるんだろう? 性犯罪について取材をしているわけでもないのに。中でも男性の性被害についてどうしてこんなに関心があるんだろう?

そういえば大阪弁護士会が性犯罪被害者の無料相談会を催した時のこと。告知では女性だけが対象のようになっていたため、男性からも相談があれば対応すると担当の弁護士(女性)に確認し、取材した後輩記者(女性)に「男性の被害者も対象になると書くべきだ」と強硬に主張しました。後輩も嫌気がさしたようで「圧倒的に女性の被害者が多いし、主催者の告知でそうなっているんですからいいじゃないですか。そこまで言うなら相澤さんが取材して書いてください」と言われました。なぜそこまでこだわったんだろう?

そう考えるうち、ふっと記憶の底から蘇ってくることがありました。あれ? 私、被害を受けたことがあるぞ。そうだ、あったじゃないか。こんな重大なこと、なぜ今まで忘れていたんだろう?

それは、それより42年も前のこと。12歳、中学1年生になったばかりの僕に起きました。私はそのことを忘れていました。封印していたのでしょう。その封印が42年の時を経て偶然のきっかけで解き放たれたのです。そして思い出しました。中学に入ってまもない時期に起きた出来事を。

中学の寮で先輩にいじめられたことがエスカレートして……

私は小学校まで宮崎で暮らしていましたが、小学6年生の時に担任教師の勧めで他県の私立中学を受験し入学することになりました。カトリックの修道会が運営する中高一貫の男子校です。遠方から入る生徒のため複数の寮がありました。

私は学園から徒歩15分ほどのカトリック教会に付属する通称「カト寮」に入りました。中学生ばかり50人ほどの生徒がいくつかの部屋に分かれて暮らしています。部屋には二段ベッドがずらりと並んでいました。

教会の寮といっても神父さん達は運営にほとんどタッチしません。住み込みの寮母さんと舎監さんは高齢で大変そうでした。学園から離れているため教師の目も行き届きません。事実上かなりの運営が生徒に任されていました。それは自主自立であると同時に、上級生の言うことが絶対になるという問題点がありました。