ドイツの外交力強化は長い首相在任の成果
ドイツでは、下院の任期が4年で、総選挙で敗れるか、高齢で引退したり死去したりしない限り、首相が途中で辞任することはない。ただ、比例代表制であるので、任期途中で連立の組み替えがあることがある。
戦後の首相はわずか9人で、平均で10年足らず。アデナウアーが14年、コールが16年、メルケルも16年である。ブラントは5年足らずで死去し、それを引き継いだシュミットは8年も首相の座にあった。戦敗国として不利な立場にあったドイツが外交で上手に立ち回れているのは、この政権の安定性が大きいと思う。
イタリアは、比例代表制のために政権交代が多かった。一時は選挙制度を改正して二大勢力に収斂されたが、また、もとの木阿弥。それでもかつてよりは安定しているし、政党人抜きの実務者内閣なども登場して、かえって評判が良かったりする。
1946年の共和国発足以来、現在のメローニ首相は31人目であるから、平均2.5年である。ファンファーニが5回、アンドレオッティとベルルスコーニが3回、ほかに6人が2回就任しているから、政権自体はもっと短いスパンで交代していることになる。
カナダもインドも「平均寿命」は5年前後
戦後のカナダの首相は13人で、現在のジャスティン・トルドー首相の父親のピエール・トルドーが2度政権を担っているから、政権の平均寿命は5年半である。
インドは初代のネルーから数えて現在のモディが14人目だが、うち2人が2回務めているので、政権の平均寿命は5年足らずである。国民会議派と人民党系で政権交代が比較的円滑だ。
中国は一党独裁国家であり、毛沢東が20年余支配したあと、鄧小平がいわば闇将軍のような存在だったのでややこしい。鄧小平、江沢民、胡錦濤が10年ずつくらい支配し、習近平も同じかと思っていたが、規約を改正して「2期10年」制限を撤廃した。今年3月から3期目に入り、さらに権力に留まる見通しで、独裁化が心配だ。
これまでは、だいたい10年という長さがひとつのめどになっているのは、安定性と行き過ぎた長期政権の弊害除去とのバランスがほどよいところで、それが中国経済の大発展をもたらしたといえるのに心配だ。
一方、日本の首相は、戦後78年間で延べ37人に上る(吉田茂と安倍晋三は再登板)。政権の平均寿命は平均2.1年で、極端に短い。
これでは、外交上の信用もさることながら、国内でも大きな改革はできない。新しい政策を提案し、法律を成立させ、細則を決めて予算化し実行するには、3~4年はかかるものだし、官僚にとってもすぐに交代する首相は怖くもなんともなく、官邸主導など無理である。