しかも6兆円の中身は、カニ、ウナギ、お節、ビール、お菓子、アパレルなどを扱う全国5万6000店の中小零細企業である。中には楽天市場での成功がきっかけて「全国区」のブランドにのしあがった会社もあるが、こうした企業は楽天市場がなければ、全国の消費者を相手にすることはできなかった。

楽天は政府が「ふるさと納税」を始めるよりはるかに前から「ネットの力で地域をエンパワーメントする」という理念を掲げ、地方の零細企業にネットの使い方を教えてきた。消費者の方も、楽天市場がなければこれら地方の企業が扱う商品と出会うことはなかった。

ナショナルブランドのメーカーと全国チェーンのスーパー、百貨店などの巨大流通資本に支配されていた日本の消費を中小零細に開放した。「消費の民主化」である。

大赤字を出しながら挑んでいるモバイル事業も「携帯の民主化」だ。楽天モバイルがサービスを開始した2020年時点で月額7000円を超えていた日本のスマホ料金の平均は、22年までに5000円台前半まで下がった。楽天モバイルが打ち出した「データ使い放題で月額3278円」という価格破壊に応戦する形でNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクが格安プランを出したからだ。その結果、すべてのスマホユーザーは毎月1000円以上、料金負担が減ったことになる。

アマゾンが値上げを躊躇する

楽天は「金融の民主化」にも一役買っている。楽天カード、楽天証券、楽天銀行はネットのパワーを使うことで、クレジットカードや証券投資や銀行決済の敷居を下げ、誰もが気軽に使えるサービスにした。SBI証券を追いかける形ではあるが、楽天証券は10月1日から国内株式の取引手数料を無償にした。メガバンクや証券会社が支配していた金融市場を民主化してきたのだ。

楽天の存在は巨大企業が支配する市場を民主化するだけでなく、新たな支配者から守る役割も果たしている。アマゾンジャパン(東京・目黒)だ。同社は8月24日、有料会員「プライム」の年会費を4900円から5900円に引き上げた。月間プランは500円が600円になった。

玄関の前に置かれたアマゾンプライムの箱
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アマゾンプライムはアマゾンで買い物した時の配送料が無料になり、映画のプライムビデオや音楽配信のアマゾンミュージックが利用できる。アマゾン経済圏にどっぷり使って生活している多くの人にとって年会費の2割値上げは大きな痛手だ。

それでも日本のアマゾンユーザーは恵まれているほうである。値上げしたとはいえ、米欧に比べると日本の年会費は格段に安いのだ。アマゾンがEC市場を支配している米国の年会費は139ドル(約2万1000円)、英国は95ポンド(約1万7600円)、ドイツは89.9ユーロ(約1万4600円)である。