子供も親から独立した人間でありたい
最後に、もう一つ理解しておく価値のある、子どもが嘘をつく三つ目の理由も解説しておきましょう。それは、自立性を主張するためです。
わたしたちは、子どもであれ大人であれ、自分の位置を把握し、自分が何者かを知り、自分が独立して存在できると感じたいという人間としての基本的な欲求を持っています。だからわたしたちは、誰かに支配されていると感じることをとてもきらいます。誰かに自分が独立した人間であることを否定されているような気がするからです。
このような状況に、人はさまざまなレベルで抵抗し、人生を思い通りにできているという感覚をほんのすこしでも得るために、自分に不利になるような方法をとることもあります。子どもは、どんな年齢であっても、多少は親から独立した時間や空間を持ち、自立心と自主性を感じることを必要としています。
一部の子どもにとって、嘘をつくことは、この人間として基本的な欲求を満たすために欠かせないツールになっています。お菓子を制限されて育った子どもがクッキーを親に内緒で食べるとき、その子は自分が一人の独立した人間であることを確信します。勉強のプレッシャーをたくさんかけられて育った思春期の子どもが、試験前に勉強を放棄するとき、その子どもは自分が親とはちがう独立した人間であることを確信します。
子供に「いろんなことを許容してくれる安全な大人」だと思わせる
ですから、嘘をつくときには(「クッキーなんて食べてない!」とか「もう勉強したよ!」)、人生において、自意識と自立の感覚を持てる部分をなんとか維持しようとしているのです。もちろん、こうした状況で、親はさらに支配を強めようとしたくなりますが、それでは嘘をつく動機を強めるサイクルになるだけです。
ここでぜひ心に留めてほしいことは、サイクルは、「ネガティブ」なサイクルであっても、その成り立ちさえわかれば、変化させられるということです。「親の支配→子どもの嘘」というサイクルを断ち切るには、手始めに、このパターンについて子どもとつながる必要があります。親子とも落ち着いているときに、子どもにこんなふうに声をかけます。
「ねえ、あなたにもっと自立してもらおうと思うんだけど、どうかな? 子どものうちは、思い通りになることがほとんどなくて、つらいよね。何から始めようか。もっと自分で決めたいと思っていることは何?」
子どもの返事を聞いて、そこからスタートしましょう。
具体的な対応策に移る前に、もう一度、重要なことをお伝えしておきたいと思います。なぜなら、親は一つ一つの嘘を「修正する」または「指摘する」ことにこだわりがちだからです。
わたしのアプローチは、いま嘘をついたと「告白」させることではなく、将来本当のことを言えるようにすることを目的にしています。本書で紹介している対応策を実行しても、子どもが「いまのは嘘です!」と言ってくれるようにはならないでしょう。それは目標ではありません。
目標は、あなたの家庭環境を変えて、子どもがあなたのことを、さまざまな経験を許容してくれる安全な大人だとみなすようにすることです。そのためには、嘘をつかれたとき、深呼吸をしてプライドを飲みこまなければいけません。その場かぎりの告白を要求するのではなく、長期的な、より効果の高い目標に集中するためです。それだけの価値はあるとお約束します。