「自然環境の利害関係者」は県以外いるはずがない

行政は法律などの権限に基づいて、事業者への指導等を行うことができる。

大井川の水問題であれば、リニア工事で静岡県が権限を有する河川法の審査基準に、「治水上、又は利水上の支障を生じないものでなければならない」とあり、大井川流域の利水団体が「利害関係者」となるから、JR東海は流域自治体、利水団体への説明責任がある。

大井川本流と支流の分岐点、県はこの沢に生息するすべての水生生物への影響予測を求めている
筆者撮影
大井川本流と支流の分岐点、県はこの沢に生息するすべての水生生物への影響予測を求めている

県HPでは、流域自治体、流域自治体を利害関係者としてJR東海との合意形成が必要としている。

ところが、南アルプスエコパークの動植物保全を担保する根拠は、県自然環境保護条例しかない。この条例が求めているのは、県と事業者の間で自然環境保全協定を結ぶだけであり、県以外に利害関係者は存在しない。

そもそも「南アルプスを愛する人たち」などという漠然とした利害関係者があったら、JR東海はリニア工事を行うことなどできなくなる。

JR東海は、南アルプスエコパーク登録に尽力し、南アルプスの動植物調査などに取り組む地元の静岡市には、同市環境影響評価条例に基づいて、さまざまな説明を行ってきた。ただ、自然環境保全協定の締結で、県は利害関係者として静岡市の合意を求めていない。

どう考えても、自然環境保全で県以外の利害関係者など存在しないのだ。

県の訂正理由もどうも腑に落ちない

「南アルプスを未来につなぐ会」は、県が予算を使って、これまで南アルプスの自然環境保全で何もやってこなかったことを取り繕うようにつくった団体であり、「利害関係者」とした川勝知事の回答は論外である。役員も大学教授や県の関係者らで構成されており、実際に南アルプスの生態系が変化することで直接的な利害を被る人はいない。

ところが、事務方が作成した「正しい知事発言」として出された訂正文は、「どの団体とは言えないが、南アルプスを愛する方々、山岳会も関心が高いので納得しないとまずい、利水団体のような明確な形では言えないが南アルプスを愛する内外の方」となっていた。「南アルプスを未来につなぐ会」の関係箇所を削除しただけで、そのまま知事発言にある不特定多数を指すとしてしまった。

県の担当者に「南アルプスを未来につなぐ会」を削除した理由を聞くと、「県がこの団体を創設したこととリニア問題とは関係ないから」だという。

この回答にも首をかしげてしまった。

もしこの説明がまかり通るのなら、山岳会など「南アルプスを愛する内外の人たち」もリニア問題に全く無関係の存在である。どうして、「南アルプスを愛する人たち」も削除しなかったのか、説明がつかない。

実際には、県リニア担当部局の予算でつくった団体だから、「南アルプスを未来につなぐ会」関係を削除したのが、本当の理由なのだろう。

「この団体がリニア問題と関係ない」という県庁内部の理由では、誰も理解できない。

おわかりのように、知事発言を訂正するならば、「県以外に利害関係者はいない」としなければならない。