中濃度アルコール製品で勝負しようとした

黒川さんは新卒でサントリーホールディングスに入社。営業畑で8年間経験を積んだのち、2017年にストロングゼロのブランドマネジャーとなった。この時期、缶チューハイを含むRTD(Ready to Drink=開けてすぐに飲める)市場では、ストロングゼロのような高濃度アルコール製品が5割近くを占めるまでになっており、好調であると同時に厳しい生き残り競争が続いていた。

そこでサントリーでは、ストロングゼロブランドに新たな価値を加えるため、それまで自社内で爆発的ヒットがなかった中濃度アルコール製品(以降、中アル製品)を開発することに。アルコール度数8〜9%が人気の市場に、あえて6%前後の商品を投入して勝負をかけようとしたのだ。その旗振り役に任命されたのが黒川さんだった。

発売前の1週間はほとんど眠れなかったと話す黒川さん
発売前の1週間はほとんど眠れなかったと話す黒川さん(撮影=プレジデントオンライン編集部)

プロジェクトチームには、開発やデザイン、営業などさまざまな部門から総勢20人以上が参加した。それまで営業職だった黒川さんは、新商品開発はもちろん部門横断チームのまとめ役を担う経験はまだ浅かった。

戸惑いはあったが、もともと新しい挑戦をさせてもらえることをうれしいと感じるタイプ。この任命も意気に感じ、熱意を持って取り組んだ。

「会社の指令で始まったプロジェクトではありましたが、チームを動かすには僕自身が自分ごととしてやらなければと思いました。中アル製品を『会社がやりたがっているからつくる』ではなく、『僕がつくりたいんだ』という思いで取り組むことが大事だと」

開発、宣伝に多額の投資……「失敗できない」

開発途中では消費者ニーズの調査も実施した。その結果、中アル製品を求める人は高濃度アルコール製品もよく飲んでいることがわかり、「ストロングゼロブランドから中アルを出せば両方飲んでもらえる」と確信。開発の意義を見いだしたことで、モチベーションはますます高まった。

ただ、相当なプレッシャーを感じてもいた。会社としてはこの商品に勝負をかけていて、開発やCMにもかなりの額を投資している。失敗できないという思いは完成が近づくにつれてどんどん強くなり、発売前の1週間は不安でほとんど眠れなかった。