どんな言葉もマイナスに感じやすい状態にある
このような時に、私がYesと言うことはほとんどありません。その理由は、上記以外に3つあります。
1つめは、今回のケースでは、Aさんのストレス原因の大きい部分が上司Bさんであったからです。
メンタル休職者のストレス原因には、いろいろなものがあります。職場の人間関係はどの調査でもトップ3に入ります。そして、往々にして、それは上司との関係です。休職の目的の1つは、ストレス原因から距離を取ることです。それなのに、上司から連絡があったら、休職者は自宅で安心して休養に専念できなくなってしまいます。
2つめの理由は、多くの休職者は、自分が休んでいることを恥に思い、同僚達に対して申し訳ないという気持ちでいっぱいです。これは、病気のせいで自己肯定感が低くなっているせいでもあります。このような時、人は、どのような優しい言葉も素直に受け取ることはできず、自らをもっと落ち込ませるように感じてしまうものなのです。
ストレス原因が上司でなかったとしても、上司からの「仕事は気にしないで治療に専念してね」「業務は回っているから大丈夫だよ」「チーム全員でAさんの回復を待っています」などの言葉を聞いたAさんはきっと、「私なしでも業務は回っている。私は不要な人間だ。こんなに迷惑をかけてしまって、復職の際はどのような顔をして出社すればいいのだろうか」などと考え、落ち込んでしまうでしょう。
連絡を取りたいのは「自分のため」かもしれない
3つめの理由は、上司に、自分が休職者のストレス原因だと薄々気づいている傾向があることです。そもそも上司が本当にAさんのことを思って、連絡を取りたいと言っているとは限りません。休職者のためにではなく、自分のために、連絡を取りたいという本心が見えてしまっている上司もたまにいます。
ある程度人間関係を構築できる人であれば、部下が休職した場合、自分がその人のストレス源になっていたかは想像がついていることがほとんどです。自分が原因だったかもしれないが、会社にはそう思われたくない上司は、往々にして、“いい上司”のふりをし始めます。周囲に「Aさんには期待していたんだけどね」とか、人事に「Aさんに励ましの連絡を取りたい」と言うのです。
一方、この想像がつかないような上司の場合、休職者にいざ連絡を取ったときに、何か余計なことを無神経に言ってしまう可能性があります。ですので、どちらの場合も休職者への連絡はご遠慮いただいています。
もちろん、上記3つの理由をそのまま上司に伝えるわけにはいきません。ですので、産業医の私は、言葉を選びつつ、上司にはそのような申し出を感謝しつつ、Aさんがもっと回復するまで、待つことをお願いするのです。