「都庁の高さの“燃える竜巻”」「タワマンの弱点は」首都圏を襲う巨大地震のリアルなシナリオ《関東大震災から100年》(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2023年10月号)

1923(大正12)年に関東大震災が発生して、9月1日で100年。約10万5000人が犠牲となった大災害の節目に改めて知っておきたいのが、ふたたび首都圏に甚大な被害をもたらすとされる首都直下地震の実態だ。

実際に発生した場合、想定される被害はどれほどなのか。都市部に林立するタワマンや高層ビル群に危険性はないのか。火山学・地球科学研究の第一人者である鎌田浩毅氏(京都大学名誉教授・京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授)が、発生のメカニズムから被害対策まで“リアルなシナリオ”を「文藝春秋 電子版」で明かしている。

関東大震災から100年。いま首都圏で大地震が発生したら何が起きるのか ©時事通信社

府中・飯能間にある立川断層帯も「満期」状態

鎌田氏によれば、現在は1000年ぶりの「大地変動の時代」。関東大震災クラスのマグニチュード7.9の地震が、いつ起きても不思議ではない状況にあるという。

まず気になるのが、首都圏を襲う地震の震源だ。鎌田氏は、主に3種類に分けられると分析する。一つ目が、大田区の地下を震源とする「都心南部直下地震」をはじめとした、都心を震源とする直下地震だ。

「『都心南部直下地震』では最大震度7の揺れが起きる。なお、震度7とは気象庁の定めた震度階級で最大のもので、阪神・淡路大震災のほか新潟県中越地震(2004年)、熊本地震(2016年)、北海道胆振東部地震(2018年)などでも記録され、いずれも多数の死者を出した。このような地震が今後30年間で起きる確率は約70%と予測されている」

二つ目は、東日本大震災のあと、活発化している「活断層」。「立川断層帯」などが代表的だ。

「東京都府中市から埼玉県飯能市にかけて長さ33㎞の『立川断層帯』がある(下図参照)。ここで予想される地震の規模はM7.4で、今後30年以内に立川断層帯で地震が発生する確率は0.5~2%と予測されている。(略)立川断層帯は最後に大地震を起こしてから1サイクルの周期が過ぎているように推測される。銀行預金に例えれば、『満期』に近い状態」

さらに、三つ目は、関東大震災を引き起こしたタイプの「海の巨大地震」だ。

「直下型地震とは異なり、房総半島と伊豆大島の間にある『相模トラフ』をまたぐ二つのプレートがずれることで発生する。(略)関東大震災の規模を表すマグニチュードは7.9で、阪神・淡路大震災(M7.3)より8倍大きい。このタイプの地震が海底で起きると東京湾に最大2.2メートルの津波が押し寄せ、沿岸域では激しい液状化が起きると予想される。東京湾に侵入した津波は地震で破壊された堤防の隙間をぬって海抜ゼロメートル地帯を襲う恐れがある」

都庁の高さの「燃える竜巻」が現れる

実際に首都直下地震が発生した場合、具体的にはどのような被害が想定されるのか。鎌田氏は被害の一つとして「大規模な火災」が住宅地を襲うと指摘する。

「地震直後には至る所で火災が発生し、短時間に燃え広がる。その後、上昇気流によって竜巻状の巨大な炎をともなうつむじ風が発生する。『火災旋風』という高さが最大200メートル以上の巨大な炎の渦が竜巻のように高速で移動する。