2時間ほど続いた虐待から、解放されたと思ったのもつかの間。こんどは髪を引っぱり村中を引きずり回され、意識を失うと寺院の脇に棄てられた。事件は2021年に起き、魔女狩り防止法に基づいて加害者の全員が起訴されている。首謀者の男とその弟は数カ月を刑務所で過ごしたが、その後保釈された。被害女性はいまも、腰と背中に痛みを抱えている。
暴行事件のあと、被害女性の暮らしはいっそう困難となった。村の水道を使うことを禁じられ、池での沐浴も許されなくなった。家の周囲には、村への侵入を禁じる柵が立てられた。それでも彼女は、断固とした意志で村に留まっている。「3人の幼い子供たちがいます。自殺など決してしません」
原因は「性的な誘い」を断ったこと
女性は以前、村の有力者である男性から性的な誘いを受けていた。これを断ったことでトラブルに発展したという。男性は女性を魔女と決めつけ、自身の妻や娘など身内4人で襲撃に及んだ。
ニューヨーク・タイムズ紙は本件を、現代に残る悪習だと指摘している。「インドでは法律をはじめとする取り組みが多数行われているにもかかわらず、古くからの悲劇の元凶である魔女狩りの根絶にいまだ苦慮していることを示す証拠となった」と同紙は論じる。
村内の対立はもとより、おなじ一族のなかで惨劇が繰り広げられたケースもある。
2019年9月のある日、ジャールカンド州の州都・ラーンチーから15キロほど離れたバロティの村で、高齢の女性が親戚によって殺害された。ムンバイで政策研究にあたるNPO法人のインディア・スペンドが詳細を報じている。
女性は夫と一緒に暮らしていたという。夫婦は毎日昼下がり、近くの森へと交代で足を運び、薪を集めていた。その日も食事を終えた夫が森へ向かおうとしたところ、2人の甥が訊ねてきた。妻はどこか、と聞いてくる。森にいるはずだ、と夫は答えたが、それ以来、夫が妻に会うことはなかった。
「 息子が病弱なのは魔女のせい」呪術医を信じた甥2人の蛮行
夫はたまたま帰省で訪れていた娘とともに、必死になって妻を探した。だが、2人は惨状を目にする。娘はインディア・スペンドに対し、「突如として、血まみれの痕跡が目に飛び込んできました」と語る。
「まるで何者かが、血に濡れた物体を引きずって歩いたかのようです」。夫と娘は赤い痕跡をたどった。斜面の下、痕跡が途切れた地点に、妻の無残な遺体が横たわっていた。