サービスやものの価格は年2%増が理想的

しかも詳しく統計を見るとわかるのですが、日本のものやサービスの価格は1997年から2021年まではほぼそのままで上がっていません。これも他の国の感覚からするとありえないことです。

G7加盟国はだいたい1年で6%から11%も物価が上がっています。2023年4月のG7加盟国のCPIは1年前に比べ以下のように上がっています。

・アメリカ 4.93%
・イギリス 7.80%
・カナダ 4.41%
・フランス 5.88%
・ドイツ 7.17%
・イタリア 8.16%
・日本 3.50%

日本の場合は3.5%と他国と比べて低いのですが、先ほど述べたように1997年からは物価はほとんど上がっていなかったので1年前からいきなりぐんと上がった状況です。

上昇グラフの生活費指標
写真=iStock.com/kate3155
※写真はイメージです

日本以外の国はロシアのウクライナ侵攻が始まってから燃料費が高騰し、それがさまざまなものやサービスの価格の上昇に貢献していたのですが、侵攻して1年以上経ち、思ったほど会社や工場が燃料を使わなかったり、石油の値段が下がったりしたので、前年の上がり方に比べると少し上昇率が下がりました。

多くの国ではものやサービスの価格は1年間で2%ぐらい増えるのが理想的と考えられています。これは経済学者や財政の専門家が長年の研究や経験から導き出した数字です。1年で2%増えると、35年でだいたいものやサービスの価格は2倍ぐらいになる計算です。

これは数字が「複利」で増えていくからです。元々の値段に1年間で増えた分を加えてどんどん計算していくので、1年で2%増でも長い年月の間に何倍にもなります。

計算方法には「72の法則」というのを使います。これはものやサービスの価格が1年に何%増えたら何年で倍になるかということを計算できる数式です。

たとえば、1年に2%上がる場合は「72÷2=35」なので、1年の上昇率が2%だと、35年で価格が倍になることがわかります。

なぜ、日本企業は儲からないのか?

日本の物価がなかなか上がらないのは、日本の会社がバブル崩壊以降お金を儲けられていないからです。

お金を儲けられていないとはどういうことかというと、日本の会社は自社の製品とサービスをたくさんのお客に売ることができていないということです。

売れないのですから価格を上げるわけにも行きません。価格を上げないとお客さんはさらに買わなくなるからです。儲かっていないので、働いている人の給料を上げることもできません。

会社が給料を増やしてくれないので働いている人はお金を使う気になりません。安いものばかり買うのでより一層さらに会社は価格を上げることができません。これが日本が陥っている「デフレスパイラル」の現状です。

お客がものを買わないので、会社はどんどんと値段を下げ、さらに安い価格で他社と競争するようになり、もっと価格が下がってしまったのです。日本企業は仕事熱心ですが、熱心さが(あだ)になって儲からなくなってしまっているのです。

加えて、日本企業はもっと儲けるための設備投資、人材投資にも、お金を使ってきませんでした。日本企業はバブル以後に儲からなくなってしまったので、稼いだお金を内部留保としてどんどん溜め込み、新たに儲けを増やすための投資をほとんどしてこなかったのです。

たとえば、工場を新設したり、業務を効率化するためのITクラウドを導入したりといった設備投資や、優秀な人を新たに雇ったり、社員向けに研修を行ったりといった人材投資など、「稼ぐ力」を高めていくためにできることはたくさんあります。