日本の学童保育は実態が見えづらい。学童保育について研究してきた静岡大学教育学部の石原剛志教授は「公営から民間企業まで運営主体はさまざまで、開催場所も過ごし方も多様だ。背景には『放課後の小学生は勝手に遊ばせておけばいい』という考えが根強かったことがある」という――。(聞き手・構成=ライター・髙崎順子)
手をつないで一緒に学校に歩いている小学生のきょうだい
写真=iStock.com/JGalione
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保育園以上に実態が知られていない

夏休み期間、親たちの会話やSNSに頻繁に登場するようになる「学童(保育)」。放課後や休日、家に保護者がいない小学生が「生活」し「遊ぶ」施設だ。共働き世帯の増加によってニーズが高まり、保育園に次ぐ待機児童問題も話題になっている。

ここ20年で制度化が進み量的にも広がったことから、親たちの子ども時代とは全く異なる様相を呈しているが、その実態は保育園以上に、当事者以外には知られていない。しかし現代の子育てにおける重要トピックの一つであり、「小一の壁の打破は喫緊の課題」として、岸田政権は学童保育の拡充整備を進めている。

現代日本の「学童保育」とは、どんな形をしているか。その成り立ちにはどのような経緯があり、課題を抱えているのだろう。

本記事では学童保育の歴史と制度を専門とする教育学者・石原剛志教授(静岡大学)にインタビューし、その現在地を明らかにする。

社会の経済活動を支える存在でもある

日本の学童保育は児童福祉法第6条の3第2項に定められた福祉事業で、法律上の事業名は「放課後児童健全育成事業」、その事業が行われている所を厚生労働省は「放課後児童クラブ」と呼んでいる。だが一般的には今も、長年呼び習わされてきた「学童保育」の名で知られており(その理由は歴史的背景とともに後述する)、代表的な全国組織の名称も「全国学童保育連絡協議会」だ。本稿でも、「学童保育」の呼称で統一する。

その社会的な役割を、石原教授はこう説明する。

「学童保育には、子どもと親、そして企業・国と、それぞれの立場にとって存在意義があります。まず子どもにとっては、放課後や休日など『親がおらず、子どもだけでいる時間』の、安全な環境と遊び、生活の保障をするという意義です。大人も友達もいる場所で、寂しくなく過ごせる。これは子どもたちにとって、生存や発達の権利の保障と言えます」

子どもが安全な場所で過ごせれば、親たちは保護者としての社会活動を安心して行える。それは主に労働だ。

「学童保育は、親たちへの労働・経済支援にもなっています。そして、小学生の子を持つ親たちが働けるようにする学童保育は、企業や国にとっても重要です」

親たちの共働き化が進む社会で、学童保育の役割の重要性が増すのは、ごく自然な流れなのだ。