捜索に必須な「遭難者のプロファイリング」
私は捜索依頼を受けたら「遭難者のプロファイリング」を行う。
まずご家族に話を聞きながらメモを書く。一言一句、語尾やニュアンスも聞き漏らさないように集中して聞くようにしている。遭難発覚からすぐのタイミングでは、冷静に順序立てて話すことが難しい場合もある。私は聞き取った話をメモに書き留め、まとめ直して隊員と共有する。
ご家族に必ず聞くのは、遭難者の名前、年齢、何年くらい山登りをしているのか、これまでどういった山に登ったことがあるのか、性格や職業、登山以外の趣味である。普段の癖や山に行く前にどういった会話をしたか、なども聞く。
例えば「いつも、下山したところでメールを送ってくれるのに、昨日は届かなかったです」と聞けば、「山の中で何かトラブルがあって、下山できていないのだな」と推測できる。何が捜索のヒントになるか分からないので、ご家族が話せることから少しずつ話を広げていき、できるだけ多くの情報を教えてもらうようにする。
中でも私が最も気を付けているのは「自分の先入観を、家族の言葉に付け加えない」ことである。例えば、ご家族が「道に迷ったのかもしれない」と言ったら、その通りに書く。ここで「道に迷ったと思われる」と書き換えてしまうと、遭難者が道迷いをしたことが確度の高い情報と読み取れてしまい、捜索範囲の選択肢を狭めることにつながってしまうからだ。
何度もやり取りを重ねる中でヒントが得られることも
もちろん一度だけの聞き取りではすべての疑問を解消できないし、ご家族の方も、初対面の人間に全てを話せるわけではない。何度もやりとりをして信頼関係を築いたからこそ、ぼそっと漏らしてくれた一言が大きなヒントとなることも多い。そのため、聞き取りは何度も丁寧に行うようにしている。
私が看護学生だったときの授業で「患者さんそれぞれへの看護アプローチや、退院後の社会復帰について検討するために、一枚の紙に、家族構成や性格、趣味、何に困っているかなど、患者さんを取り巻く要素をまとめてみましょう」という課題があった。
こうした情報をまとめることで、患者さんの全体像を理解すると共に「奥さんが亡くなっていて、家族は娘さんだけ」という情報からは「退院後、娘さんは面倒を見ることができるのか?」と思いが至るし、「音楽が趣味」ならば「病室でも、好きな音楽を聴いてもらおう」という発想にもつながる。
「もしかしたら、遭難者のことを知るためにも役立つかも」と思い、捜索に取り入れ始めたのが、プロファイリングのスタートだった。