「生き肝や脳味噌が万病に効く」という迷信
にわかには信じがたい話だが、明治・大正期の新聞にはこういう話が多く掲載されている。
その背景には、人間の生き肝や脳味噌が万病に効くという迷信が広く信じられていたことが挙げられる。死体の一部を窃取するよう依頼する者が後を絶たなかったというのだ。
次の事件も、そのような迷信によって引き起こされたものである。
死体から脳味噌を取った穏亡
「(死体の一部を窃取したのは)岩手郡米内村、正念寺火葬場の穏亡、熊谷松蔵(六五)および火葬場管理人、漆原浄林(五八)の二名にして、脳味噌、胆は難病に効験ありとの迷信に駆られ、希望者多きより、両名共謀して半焼きの死体を夜陰に乗じて引き出し、小刀等にてえぐり取り、各方面に一個七十円くらいにて密売したるものにて、えぐり取りたる死体は今日まで約二千百以上に達する見込みなるが、買い受けしものの中には東京在住の某華族ありとの噂あり。なお取り調べの進捗につれ、岩手郡浅岸村火葬場の穏亡、小笠原要蔵(七一)にも同様の犯罪あること発覚したるも、同人は二十日、脳溢血にて死亡」(「函館毎日新聞」大正9年3月29日)
脳味噌と生き肝を1個70円で密売していた
岩手郡米内村(現在の岩手県盛岡市)の正念寺の火葬場で働く、熊谷松蔵(65)と管理人の漆原浄林(58)が、脳味噌と生き肝が難病に効くというので、夜陰に乗じて半焼けの死体から切り取り、1個70円くらいで密売していた。えぐり取られた死体は約2100体以上もあったとされ、購入者の中には、東京在住の某華族もいたという噂もあった。同じ岩手郡の浅岸村の隠亡、小笠原要蔵も同様の犯罪を犯していたが、脳溢血で死亡したため検挙されなかったという。