SNSにアップする自撮りなど、何かと顔で評価されがちな現在、容姿に自信が持てず傷つく人が増えている。精神科医の中嶋英雄さんは「自分の顔が嫌いでたまらず、それゆえに人生が辛すぎると苦しむ患者さんを診てきました。身体醜形症という心(こころ)の病になっている場合が多く、客観的に見てそんなことはないのに『私は醜い』と思い込んでしまう」という――。

※本稿は、中嶋英雄『自分の見た目が許せない人への処方箋』(小学館)の一部を再編集したものです。

スマートフォンを手に泣いている女性
写真=iStock.com/yamasan
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原因がはっきりしない身体醜形症にもパターンがある

なぜ、人は身体醜形症という心の病になってしまうのでしょうか。現状では「これこそが原因である」という根本原因をはっきりと示すことはできません。

ただ、たくさんの患者さんを診るなかで、成り立ちによっていくつかのタイプに分けられることに気づきました。

身体醜形症になりやすい人には次の6つのタイプがあります。

「愛着障害タイプ」「PTSDタイプ」「思春期失調症タイプ」「美容整形がきっかけになるタイプ」「ほかの精神疾患に合併・併存するタイプ」「先天性あるいは病気・外傷による変形の治療後に発症するタイプ」。

タイプがわかったからといって、患者の苦しみを一気に払拭できるわけではありませんが、患者が自分をよく知ることは、苦しみから回復するための大切な一歩につながります。

漠然とただ苦しみを抱えているよりも、「そうか、自分はこういう理由で苦しいんだ」と自分なりの認識を持つことによって、心の痛みはやわらぐものです。

ここでは「愛着障害タイプ」の実例を見ていきましょう。

リストカットがやめられない15歳のサキさんの例

小学校6年生から中学3年間という、長期間の不登校がつづいているサキさん。

「顔が醜い」とパニックになることが多く、リストカットがやめられず、「死にたい」という考えが頭から離れないという症状を抱えて、母親と一緒に来院しました。

両親はサキさんが6年生の頃、母親の不倫が原因で離婚。親権が父に渡ったため、父の実家で祖父母と父、4歳下の弟との5人暮らしがはじまりました。母親と会えるのは月に1~2度ほど。この頃、サキさんは精神科を受診して身体醜形症の診断を受けています。ただ、医師との相性が悪く、通院にはいたらなかったそうです。

母親も不安障害とパニック障害を抱えて心療内科に通っている人で、父親はとてもキレやすく、定職に就かずに職を転々としている状況で、サキさんの苦悩を聞いてくれる人は誰もいませんでした。

サキさんが「死にたい」などと言えば、父はものすごい剣幕で怒り「お前の顔はガリガリだ」「学校にも行けない女がよくそんな口を叩くものだ」と強い言葉を浴びせられるばかり。その場にいる祖父母も弟も、見て見ぬふりだったといいます。

高校は不登校の生徒向けのフリースクールに入学しますが、初日にクラスメイトにからかわれたため、翌日からはまた行けなくなってしまいます。

私のところへやって来たのはこの頃で、娘の治療費は出したくないという父親の意向で、母親の実家の援助を得ながらオンラインの遠隔診療をスタートしました。