人工関節手術は衰弱を招く

軟骨がほとんどなくなってしまっているなどの、重度の関節痛の治療では、人工関節を埋め込む「人工関節手術」を行うことが多いです。もちろん、人工関節の技術は素晴らしいものですし、私自身、多くの人工関節手術を担当してきました。

しかし、人工のものゆえのデメリットもあります。人工関節が劣化してしまった場合、関節を取り替える手術を行うのですが、取り替えるたびに骨を削る範囲が広がります。

また、手術を行うと一定期間寝たきりの状態になります。高齢の方の場合だと、体を動かせないことで筋力が低下し、急速に衰弱してしまう可能性もあります。職場や家庭から長期間離れる必要がありますし、日常生活がままならない状態でない限りは、可能であれば避けたい治療法です。

ほとんどの痛みを幹細胞治療が解決!

その意味で「幹細胞治療」は、今まで治療で懸念されてきたデメリットを解消しながら、より大きな効果が期待できる画期的な治療法です。

幹細胞治療では、「幹細胞」を患者の体から取り出して培養し、体内の損傷がある部位に注入します。

すり減った軟骨も再生する最新治療 幹細胞治療の仕組み

幹細胞には、自分と同じ能力を持った細胞に分裂できる「自己複製能」があります。そのため、腹部の脂肪を0.2ミリリットル採取すれば十分な幹細胞を培養できます。皆さん、もっと多くの脂肪を取ってほしがるのですが、米粒ひとつ程度しか採取しません。

幹細胞は、骨・軟骨・腱・神経・皮膚など体をつくるさまざまな細胞に変化する「多分化能」も持っています。培養された幹細胞は、体内の損傷がある部位を探し当ててくっつき、炎症を抑えるとともに傷を修復していきます。

「関節の中にある幹細胞で十分じゃないのか」と思われるかもしれません。しかし、幹細胞は血流の多いところに存在するため、ほとんど血流のない関節や腱には、幹細胞もわずかにしか存在しません。そこで、患部に幹細胞を注射し、炎症や損傷の回復をうながすわけです。

傷の修復だけでなく、すり減った軟骨の回復や変形した関節の修復に効果があることが明らかになっています。当院には、接骨院や整形外科での標準的な治療では回復できなかった方が来院されることが多いです。それでも、7~8割の方は幹細胞治療で症状が改善しています。リハビリやヒアルロン酸注射の効果が感じられなくなった方には、ぜひ幹細胞治療を検討していただきたいです。治療期間は、症状の進行度合いによって変わりますが、たいてい3~6カ月です。1年以上かけて改善するような人もいます。

とはいえ、怪我したときに、擦り傷は綺麗に治っても、えぐれた傷は痕が残ってしまったという経験をお持ちの方は多いでしょう。同じように、関節でも損傷の大きい傷は完全には修復しません。だからこそ、損傷が深くなり手遅れになる前に幹細胞治療を行うことを推奨しています。