「悪ノリ」の結果としてのセクハラ

そんな香川氏は、昨年、セクハラを告発される。

銀座のクラブで、ホステスの胸を触ったり、キスをしたりするといった性加害に及んだため、被害女性がPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患っていたと、週刊新潮の2022年9月1日号が報じた。

香川氏は、当初、大きな問題とは考えていなかったのではないか。

担当していた、朝のニュース番組「THE TIME,」(TBS系列)の毎週金曜日のキャスターを続ける姿勢を見せていたほどである。

セクハラを報じた週刊新潮の発売が2022年8月24日水曜日、その翌々日に生出演した「THE TIME,」で、香川氏は謝罪したものの、「与えていただける仕事に対しましては、しっかりと真摯しんしに真面目に一生懸命、全力でこれまで通り挑んでいきたいと思っております」と述べている。

もちろん、香川氏の思いだけでは決められない。

TBSやスポンサー、所属事務所など、数多くいる関係者の事情や意向を総合的に判断した結果だったに違いない。

とはいえ、少なくとも、香川氏本人が、生出演を強く辞退しようとしたとは思えない。

それは、もとのセクハラそのものを、彼自身が「悪ノリ」が過ぎた、程度にとらえていたからではないか。「男子校のノリ」が行き過ぎた程度で、キャスターを降板するほどではない、と考えていたからではないか。

「ノリ」の裏表の繊細さ

市川猿之助氏については、どうか。

母・延子さんの自殺を助けた疑いで逮捕されてから、市川氏の供述として、「3人で、死んで生まれ変わろうと話し合い、両親が睡眠薬を飲んだ」とし、「週刊誌報道がきっかけだった」と説明しているという(*2)

事件は、いまだ捜査中であり、その供述の真偽をふくめて、報じられている以上には何もわからない。ここは、真相を邪推する場でも、市川氏をかばう機会でも、非難する場でもない。

警視庁目黒署から出る歌舞伎俳優の市川猿之助容疑者を乗せた車両
写真=時事通信フォト
警視庁目黒署から出る歌舞伎俳優の市川猿之助容疑者を乗せた車両=2023年6月27日午後、東京都目黒区

わたしが暁星の後輩として見聞きするかぎりの同氏は、きわめて繊細で、傷つきやすい人だった、という点に着目したい。

先にあげた、ドラマ『半沢直樹』での「同じ男子校のノリ」の裏側には、その「ノリ」をわかってくれる人だけに(しか)心を許さない、あるいは許せない、世界の狭さがある。

市川氏のセクシュアリティがどうだったか、わたしは全く知らないものの、暁星での一般論として、いわゆる「男性」以外の性自認を見聞きする機会はある。

たとえば、わたしの数年後輩に『わたし、男子校出身です。(*3)をあらわした椿姫彩菜氏がいる。