離婚の際、大きな焦点となるのが親権だ。一度決定した親権者は後で変更することができる。家庭裁判所の家事調停委員として活躍した鮎川潤さんが柔軟な親権の在り方を紹介する――。

※本稿は、鮎川潤『幸福な離婚 家庭裁判所の調停現場から』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

学校に駆けつける小学生の男の子
写真=iStock.com/TATSUSHI TAKADA
※写真はイメージです

母親から父親へ親権者変更

本稿では、離婚に伴う親権の在り方について3つの事例を検討していきます。

ケース1
〈年齢〉父親:40歳代前半 母親:30歳代後半
〈職業〉父親:自営業 母親:会社員
〈子ども〉長男:12歳 次男:8歳
〈背景〉母親が2人の子どもの親権を持って監護
〈経緯〉母親からの長男の親権者変更の申立

離婚時、2人の男子の親権は母親が取得しましたが、今回長男の親権者を父親にすることは、母親のほうから提案しました。父親の了承を得て、母親が家庭裁判所へ申立を行いました。

母親が子どもたちを連れて家を出て実家で暮らしていましたが、長男は父親と暮らしたいと言って父親のもとへ戻って行ってしまいました。母親としてはショックでしたが、自分と暮らしているときに長男は不登校ぎみでしたが、父親のところからは元気に通学し、担任の先生からも生き生きと学校生活を送っているとの報告が来ています。母親としても、長男が学校生活に適応している様子を見たり聞いたりしており、長男が父親と生活するようになってよかったと思っています。

兄弟が異なる場所で生活することになり、そのことをかわいそうとみなす人もいます。家庭裁判所調査官は、これを「兄弟分離」と呼んで、子どもたちの親権について検討する際には、選択肢としては除外します。

しかし、このケースでは、母親によれば、次男は連休や長期の休みには父親の家へ行き、連泊を伴う滞在もして兄弟で遊んで交流の機会を持つようにしているとのことです。

離婚して家族が幸福になった

母親は今振り返って考えてみて、離婚によって家族がより幸福になれたと実感しています。夫と結婚しているとき、夫の浪費をはじめとして絶えず衝突し、非常に激しい夫婦喧嘩をしばしばして、それを子どもたちに見せてしまっていました。しかし、離婚後はそうしたことがなくなり、自分も精神的に安定し、子どもたちにも穏やかな日常生活を提供することができるようになり、離婚したことは子どもたちにとってもよかった、と母親は述懐しています。

親権の変更について、母親から子どもに伝えましたが、変更に反対するという反応はありませんでした。なお、長男は12歳のため、家庭裁判所が同意書を送って同意の意思を確認するということは行われませんでした。