出産2カ月前まで一緒に暮らしていたのに、妻が妊娠していることに気づかなかった夫。離婚後に妻から届いた申立書の衝撃の内容とは。家庭裁判所の家事調停委員として活躍した鮎川潤さんが多様な離婚の在り方を紹介する――。

※本稿は、鮎川潤『幸福な離婚 家庭裁判所の調停現場から』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

母親に叱られた少年
写真=iStock.com/takasuu
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単身赴任から離婚へ

本稿では、離婚の前後で妻が自分とは違う男性の子を出産するに至った2つのケースを検討していきます。

ケース1
〈年齢〉元夫:40歳代後半 元妻:30歳代後半
〈職業〉元夫:会社員 元妻:主婦
〈子ども〉長男:10歳 長女:4歳
〈経緯〉元夫から長女と自分との間の「親子関係不存在確認」の申立

この(元)夫婦は11年前に結婚しました。結婚して1年後に長男が生まれます。その1年後に夫が単身赴任になります。妻は、まだ子どもが小さいため、自分の知らない遠方の土地に同行して一人で子育てすることに不安を感じ、結婚したのと同じ故郷の小さな町に留まり、実家の援助を受けて子育てすることを希望します。

夫はときおり妻のもとへ帰っていましたが、仕事が忙しくなり、たまにしか帰宅しなくなりました。やがてお盆や正月の長期休暇のときにしか帰宅しなくなり、さらにその時期は混雑するというので、ほとんど帰ることがなくなります。妻としても、夫に帰宅を促すようなことはなくなります。

妻が帰宅を促さなくなった理由

給与は妻が管理し、夫は残業手当などで自分の小遣いを賄って暮らしていました。

妻が、夫に帰宅するように言わなくなった最大の理由は、実は夫が単身赴任して2年後から夫以外の男性と交際するようになったためです。しかし、そのことに夫は気がつきません。単身赴任して3年後に夫婦の間で、一度、妻の側から離婚の話が持ち出されます。

これは自分が単身赴任しており、家に帰る頻度も少なくなり、夫婦と言えるような状態ではないこと、また長男出生時以来、子育てを手伝うことがなくきていることに対する不満の表明だろうと夫は考えました。しかし、妻のいる町へ戻るという転勤の話もないため、そのままになってしまっていました。

地位が上がるにつれてますます忙しくなり、単身ということで、子どもが病気になった、学校行事で会社を休みたいといった社員の代わりを務めるようになり、さらに妻の住んでいる場所へ行くには不便な地域へ転勤したりして、ますます自宅への足は遠のいていきました。帰宅しても、滞在は短期間で、妻とは意思疎通が円滑に行かず、ギクシャクしており、妻、長男と3人で過ごすことはあっても、夫婦2人で過ごす時間はなく、過去5年間は夫婦間に性交渉もありませんでした。