高校野球の事故のリスクが上がっている
1969年3月14日、西鉄ライオンズの新人投手、宇佐美和雄は、夜、雨天練習場での練習中に同僚選手の打球を胸部に受けた。宇佐美は、一度は立ち上がったものの再び倒れて、病院に搬送された後、外傷性ショックで死亡した。18歳だった。生きていればドラフト同期の東尾修と共にライオンズの投手陣を背負ったのではないかといわれた逸材だった。
頭部に打球が当たった場合には陥没骨折、脳の損傷など致命的な損傷を負うこともある。
しかし胸部に打球が当たった場合はAED(自動体外式除細動器)などを適切に使用すれば、一命をとりとめることもある。宇佐美選手もAEDがあれば一命を取り戻せたかもしれない。
2006年7月9日、新潟県糸魚川市の小学生の水島樹人君は、少年野球の試合前に急性心不全で倒れ、わずか9歳で亡くなった。
ちょうど同時期に新潟からBCリーグ構想が生まれていた。当時の代表は「樹人君の悲劇を繰り返さないために」と、“MIKITO AED PROJECT”を立ち上げ、現在でもAEDの普及活動をリーグ全体で行っている。
こうした働きや、サッカーなど他競技の影響もあり、現在では少年野球からプロ野球までほとんどの野球の現場でAEDが完備されている。柔らかいゴムボールを使う小学校低学年や未就学児の野球教室でさえもAEDの設置と傷害保険への加入は必須の条件になっている。
また全国で行われている少年野球チームを対象とした野球肘検診では、AEDの操作法の講習会を行っているところもある。学校単位、チーム単位でAEDの講習会を行うことも増えてきた。
また、野手と走者が接触する激しいプレーも格段に減少した。プロでは2016年からルールが制定されており、少年野球でも厳しく罰せられるようになっている。
選手の命を守るための環境整備は、以前とは比較にならないほど進んでいる。ただその流れと逆行するように、高校野球ではむしろ今、「球児の事故、健康障害のリスクは近年高まっている」という声が現場から上がっている。
改善されない金属バット問題
ひとつ目は「飛びすぎる金属バット」の問題だ。
金属バットは主として日本とアメリカで使用されているが、アメリカでは反発係数が木製と同じ程度になるバット「BBCOR」仕様のバットしか使えないことになっている。これに対し、日本の高校野球は反発係数の高い金属バットを使用している。
ここ数年、有力校では筋トレやプロテイン摂取など食事療法による筋肉増強が進み、主力打者の打球速度はさらに上がっている。
2019年のセンバツ大会では、広島商の選手が打った打球を岡山学芸館の投手が顔面に受け「左顔面骨骨折」の重傷を負った。
日本高野連は来年度からバットの太さを見直した金属バットの導入を決めている。しかし以前のコラムでも指摘した通り反発係数の数値は測定されていない。反発係数を計測していないので、本当に金属バットの安全性が高まるのかは現時点では不明だ。