なぜネットでは頻繁に「炎上」が起きるのか。心理学博士の榎本博明さんは「スマホだといつでもどこでも瞬時に反応できるため、衝動のままに攻撃的な内容を書き込めてしまう。ネットに限らず現実世界でも、衝動的に行動する人が増えている」という――。

※本稿は、榎本博明『思考停止という病理』(平凡社新書)の一部を再編集したものです。

スマートフォンを眺める女性
写真=iStock.com/west
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ネットになると攻撃的になってしまう人たち

そもそもネット空間には攻撃的なやりとりが非常に多いと言われる。

実際、ツイッターを使っている人たちは、攻撃的なツイートをしている人をよく見かけるという。自分の書き込みに対して攻撃的な批判や中傷的な書き込みが返ってきたという人も少なくない。自分自身も、ネットになるとつい攻撃的なことを書き込んでしまうという人もいる。

ネット空間でのやりとりを見ていると、相手の反論を許さないような雰囲気が漂う。建設的な議論によってより良い結論にたどり着こうとか、気づきを得ようといった感じではなく、相手を打ち負かすことで自分の優位を誇示しようといった感じがある。

また、普段は遠慮気味でおとなしく穏やかな感じの人物が、ツイッターやオンラインゲームになると、口汚くののしったり、攻撃的な発言をしたりするというのも、しばしばあることだ。

「幻想的万能感」と「自己誇大感」で好戦的に

ネット空間でつい攻撃的になってしまう理由として、まず第一に、ネット上のやりとりでは相手に配慮する必要性が低いということがあげられる。

対面の場合は、こちらが攻撃的なことを言った場合、相手の傷ついた様子や腹を立てた様子、困った様子、あるいは悲しそうな様子が、表情や声の調子で伝わってくるし、言い返してくることもある。

だが、ネット上のやりとりでは、相手の様子が伝わってこない。まずは一方的にこちらの言いたいことを書き込むだけである。目の前に相手はいないので、対面と比べたら、相手をそれほど意識せずに言いたいことを言いやすい。

第二に、ネット上では幻想的万能感をもつ人たちが発信していることが多いということがあげられる。

ネット社会になって、その気になればだれもが不特定多数に対して発信することができるようになった。不特定多数への発信は、社会的に大きな影響力をもつため、自分は大きな影響力を行使できる、自分は何でもできる、といった幻想的万能感をもつ人たちが出てきた。

また、ネットで積極的に発信している人は、幻想的万能感をもち、自己誇大感を抱えているため、自分が絶対正しいと思い込み、人の意見に耳を貸さない傾向がある。そのため、反論されたりすると、ムキになって応戦する。