真骨頂は中年ならではの深みのある会話

『あいの里』では、参加者たちがこれまで味わった、しくじりの恋愛経験も暴かれる。下世話かもしれないが、年を重ねていれば、そんなこともあるよねという気持ちにさせる。決して否定せず、フラットに扱われているからだ。リアリティ番組でよくある扇動しがちなスタジオトークも、ベッキーと田村淳の2人の寄り添う意識が程よく、中年コンテンツとしての余裕を保ってくれる。

恋のライバルを蹴落とそうとするいざこざや、若者向け恋愛リアリティ番組で見られるゲーム感覚で攻めるような言動もない。喧嘩といえば、睡眠薬を飲んだのは1錠だったのか、2錠だったのかで51歳と60歳の男性が揉めたぐらいだ。眠れない悩みを持つ中年あるあるネタとしてむしろ笑いに変えられる。

次こそ失敗したくないという心理が働いてか、特に女性たちが現実的な問題を相手に突き付けていったのが面白い。「もし(子供を望んで)できなかったら、どうするか」「相手の介護ができると思えるのか」など、中年コンテンツの真骨頂と言えるような深みのある会話も繰り広げられる。

告白を決意した参加者は「あいの鐘」を鳴らす
写真=Netflixリアリティシリーズ「あいの里」独占配信中
告白を決意した参加者は「あいの鐘」を鳴らす

世界で注目を集める中年向け恋愛リアリティ

あるようでなかった中年による中年のためのコンテンツは実は海外でも注目され始めている。世界で最もヒットする恋愛リアリティ番組『ラブ・アイランド』を制作するイギリス最大手の民放局ITVが立ち上げる『ロマンス・リトリート』もその1つにある。成長した子どもたちから推薦を受けたシングルマザーとシングルファザーが、豪華な別荘で新たな愛を探していくデート番組だ。

日本でもよく知られる「バチェラー」シリーズからも本家アメリカで中年版『ゴールデン・バチェラー』が計画されている。これまでも世界各地で中年のための恋愛リアリティ番組がなかったわけではないが、特にこの2つの番組の影響力の高さが期待される。

多様化する価値観に合わせたコンテンツが求められる

なぜ今、ここにきて中年コンテンツなのかに対する答えは明確だ。マスマーケティングだけを考えてコンテンツが作られる時代は既に過ぎている。多様化する価値観に合わせたコンテンツが求められているからこそ、恋愛の全盛期は若者だけではないことを示す中年向け恋愛リアリティ番組が生まれているのだ。

中年だって恋愛する。『あいの里』を見ていると、シンプルにそれが伝わってくる。疑いたくなるほど出来過ぎているところもあるが、「中さん」と呼ばれる60歳の男性が、ピンクの鐘を鳴らす姿は中年の覚悟の象徴だ。中年コンテンツの面白さに気づいてしまった人は多いのではないだろうか。

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