「皇嗣は皇太子よりも下」は誤解である

秋篠宮殿下の称号は、皇嗣である。英語だとクラウン・プリンスが似た表現で、より広く推定相続人(expectant heir)という言葉もある。エリザベス女王は即位までこの肩書きだった。

また、皇嗣が英国の「プリンス・オブ・ウェールズ」、オランダの「オラニエ公」、スペインの「アストゥリアス公」といった歴史的事情を踏まえた特別の称号を名乗ることもある。

外国の皇嗣は、さまざまな称号があっても大体「皇太子」と訳されるが、ベルギーのボードワン国王時代にのちのアルベール二世が皇嗣だったときは、日本のマスコミは「皇太弟」と呼んでいた。しかし、サウジアラビアなどについては、弟でも皇太子と呼んでいたから、ルールはいい加減だ。

今上陛下のご即位のときに、皇位継承順位第1位の秋篠宮殿下をどう呼ぶか、議論になったが、秋篠宮皇嗣殿下と呼ぶことになり、立太子礼に代わる立皇嗣礼が行われた。

皇太子と皇嗣の実務的な違いは、家計が上皇陛下ご夫妻、両陛下、愛子さまが使われる内廷費でなく、皇族費として独立して支払いを受ける点のようだ。

もうひとつは、呼び名が皇太子の子なら秋篠宮殿下が礼宮文仁さま、黒田清子さんが紀宮清子さまと呼ばれたように独自の宮号を悠仁さまや佳子さまに名乗っていただく必要が出てくる。

いずれにせよ、秋篠宮殿下と同じ立場の外国の皇嗣をマスコミは皇太子と呼んでいる。また、「弟である皇嗣殿下だから子である皇太子殿下より下」と受け取っている人がいるが誤解である。むしろ、年齢も含めて皇太子より重い立場であると思う。英国王戴冠式での高い序列も、そうした配慮が英国側にあった可能性がある。

むしろ「天皇の代理」という性格が強い

陛下の弟としての皇嗣殿下の役割は、やはり、陛下の子どもである皇太子とは微妙に違う。一般に皇太子は、とくにその在任期間の前半は未熟な存在だし、独身であることが普通だ。

ところが、弟である皇嗣は、君主と同年配で結婚して子供もいることが多い。であれば、皇太子がいわば天皇見習いであるのに対して、君主の代行者ないし代理としての性格が強い。

ただ、弟である場合、本当に即位するのかという問題もある。父子の場合よりは、兄弟の弟のほうが兄より先に亡くなってしまう可能性だってそこそこある。

また、陛下が上皇陛下のご退位と同じ85歳で退位されたら、80歳の皇嗣殿下が即位することになり、そしてまた同じ年齢でご退位されたらわずか数年だけ天皇でおられることになる。そういう状況は社会的に歓迎されないだろう。