海外では30年以上前から使用されている「経口中絶薬」の製造販売が日本でも承認された。経口中絶薬とは、どんな薬で、どんな利点や懸念点があるのだろうか。また薬価はどうなるのだろうか。産婦人科医の宋美玄さんに聞いた――。(取材・文=ヒオカ)
妊娠検査薬を確認する女性
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経口中絶薬「メフィーゴパック」とは

4月28日、厚生労働省はイギリスの製薬会社ラインファーマの経口中絶薬「メフィーゴパック」の製造・販売を承認した。日本で初めて経口中絶薬が使用可能になる。

経口中絶薬「メフィーゴパック」には、胎児の成長を止める薬、子宮を収縮させて妊娠組織を排出させる薬の2種類がある。一つ目の薬を服用後、36~48時間後に二つ目の薬を服用するというもの。海外では30年以上前から使われ、多くの先進国で利用実績があり、G7の中で経口中絶薬が使えないのは日本のみとなっていた。

これまで日本における人工妊娠中絶は、手術で行われてきた。妊娠12週未満に日帰りで行う「初期人工妊娠中絶」には、柔らかい使い捨ての手動吸引器で子宮内容物を吸い取る「手動吸引法(MVA)」、金属製の管を子宮の中に挿入して内容物を吸い取る「電動吸引法(EVA)」、胎盤鉗子という器具で内容物を除去したのち、金属製のさじで子宮内膜を掻き出す「掻爬そうは法(D&C)」の3つの手術法がある。妊娠12~22週未満に入院して行う「中期人工妊娠中絶」は子宮収縮剤を使った分娩ぶんべんで行われ、22週以降は行うことができない。

「以前は掻爬法が主流でしたが、徐々に吸引法が普及しました。人工妊娠中絶手術は9割以上が診療所で行われており、2019年の調査によると診療所の手術法の内訳では掻爬法単独は3割を下回り、他は吸引法、または吸引法と掻爬法の併用が占めています(※1)。掻爬法と併用といっても、最初は吸引法で行って、最後の確認を掻爬の器具で行うという場合もあります」(宋さん)

※1 安全な人工妊娠中絶手術について

主流だった掻爬法は「女性への罰」ではない

以前、日本で主流だった掻爬法は女性の体を傷つけるやり方で、中絶をしなくてはならなくなった「女性への罰」として行われてきたという意見もあるようだ。実際のところ、掻爬法は女性の体への負担が大きいのだろうか。2012年の調査によると、掻爬法による合併症は、最も多い再手術が必要な取り残しの起こる「遺残」の発生頻度が0.3%、大量出血が0.03%、子宮穿孔・損傷が0.02%となっており、全体として発生率は非常に低いと言える(※1)

「掻爬法には遺残が少ないという利点がありますが、子宮内を傷つけるリスクがあります。でも、日本では合併症は少ないと思います。また、いずれの手術でも麻酔をしますから、掻爬法だから痛いということはありません。以前、掻爬法が主流であったのは、掻爬法の機械しかない医療機関が多く、多くの産婦人科医が新しい機器や手技を安全に取り入れるには時間がかかったからであって、特に罰として行っていたわけではないでしょう」(宋さん)

一方、こうした説が広まるのは、中絶をする女性には説教をしなくてはいけない、高圧的に対応すべきという医師が、特に昔は多かったからではないかと宋さんは話す。「避妊をしても必ずしも妊娠を100%防ぐことはできない」(宋さん)のに、中絶するとなると心身に負担を負う女性だけが責められ、中絶への偏見がいまだに根強いことは大きな問題だ。

「医療者の態度や中絶後の心のケアなど、至らない部分もあったと思います。それは同じ医療者として申し訳なく思うところです。ただ、手術自体が問題かというと決してそうではありません。また、だからといって過去に流産・中絶で掻爬法による手術をした人に、自分が受けたのは暴力だったんだと思わせてしまうのは二次被害ではないでしょうか」(宋さん)