※本稿は、西野精治・木田哲生『最高のリターンをもたらす超・睡眠術』(大和書房)の一部を再編集したものです。
睡眠で大きくなる「記憶の港・海馬」
「頭がよい」――ということの一つの要素として挙げられるのが記憶力でしょう。
私がスタンフォード大学精神科睡眠研究所に留学し、突然眠りに落ちてしまう過眠症「ナルコレプシー」の原因究明に力を注ぎ始めたのが1987年。当時からこれまで、実に多様な睡眠のメカニズムが解明され、睡眠と記憶力の関係についても数々の研究が積み重ねられてきました。
私が睡眠について学び研究を始めた30年ほど前は、脳の神経細胞は一度分裂したらもうそれ以上は変化しないというのが通説でした。ところが、脳科学分野の研究により、記憶形成や定着に不可欠な脳の重要な役割を担うのが「海馬」という部位で、その海馬は脳内で唯一、細胞分裂を続ける神経細胞であることが明らかになりました。
それが25年ほど前のことです。とくに記憶や認知症とのかかわりについて言及されたことで、海馬の働きが注目されるようになりました。そして、睡眠研究の分野においても、実にさまざまな研究が行われてきたのです。
海馬は、脳の奥深くに存在する大脳辺縁系にあります。大脳辺縁系とは、記憶、情動の表出、意欲などに関与している複数の部位の総称で、そのなかで海馬は、記憶のうちでもとくに短期記憶と呼ばれる一時的な記憶の保存作業を担っています。新しい記憶は、いわば記憶の玄関口であり「記憶の港」である海馬を通じて、次の目的地(長期記憶・消去)へ出発していきます。
海馬は睡眠時間によって大きさが変わるということが、これまでの研究でわかっています。海馬の大きさは海馬の働きに直結していて、記憶の港のたとえでいえば、港が大きくなればその分一度に多くの情報を留めることができます。逆に、港が小さくなっていけば、それだけ港に入る情報が少なくなり仕事や勉強のパフォーマンスに影響が及ぶのです。
この海馬の働きに深く関係するのが睡眠です。