市民ランナーに寄り添ったアシックスの新戦略

各メーカーが“高速化”に注力していたなかで、『メタスピード』シリーズが好調なアシックスが新戦略を発表。新たな“シューズウォーズ”が始まろうとしている。2月下旬にサブ4(フルマラソン4時間切り)を狙うランナーに特化した『S4(エスフォー)』というモデルを発売したのだ。

きっかけはアシックス代表取締役社長CEO兼COOの廣田康人氏のひらめきだった。皇居を走っているときに、「なぜサブ4向けのモデルがないんだ」と思いついたという。

「全日本マラソンランキング」(アールビーズ調べ)によると、コロナ禍前の2018年度は男性のサブ4達成率が29.1%だった。市民ランナーのなかでは“中上級者”というレベルになる。一方で、それより少し遅い男性の4時間~4時間30分の層も17.1%を占めており、同3時間30分以内(12.2%)よりも多いのだ。

ビジネスチャンスを考えると、サブ4向けモデルを発売するのは理にかなっているといえるだろう。

アシックスはサブ4向けのモデルとして、『エボライド』『マジックスピード』『GT2000』などの商品を紹介してきたが、『S4』は従来モデルと比較して「抜群の推進性」が特徴だという。廣田CEOも「履けば違いがわかりますよ」と絶対的な自信を持っている。

ビジュアルはアシックスの最高峰モデルである『メタスピード+』と似ており、ミッドソール内の前部から後部にかけてカーボンプレートを搭載。ミッドソールは2層構造で上層部には『メタスピード+』と同じ軽量&高反発の独自素材を配置している。安定性を確保するためにアウトソールの接地面を拡大するなど、「サブ4達成を目指すランナーに適したライド感」にこだわったという。

アシックスの『S4(エスフォー)』
写真提供=アシックス
アシックスの『S4(エスフォー)』
写真提供=アシックス
アシックスの『S4(エスフォー)』
写真提供=アシックス
アシックスの『S4(エスフォー)』

「アシックス『S4』ローンチイベント」に参加した筆者は、『S4』を履いて走ることができた。まず感じたのが快適でナチュラルな走り心地だ。『メタスピード+』と比べると、推進力はやや物足らない印象があったものの、サブ4を達成するにはキロ5分30~40秒ペースで走ればいい計算になる。とにかく速いモデルよりも、ほどよく速く、安定感のあるモデルが望まれる。それを満たしているのが『S4』といえるだろう。さらに価格は2万2000円(税込)で『メタスピード+』より5500円安い。

感心したのは、新モデルを発売して終わりではないところだ。『S4』の発売に向けて、トレーニングメニューやレースを提供。世界でも類を見ない“パッケージ販売”に挑んでいる。

トレーニングに関しては、シューズボックス内のQRコードからサブ4を達成するためのメニューにアクセス。リアル&オンラインでトレーニングが体験できる。そしてレースはサブ4を達成するために特化した「Challenge 4」というイベントを5月に大阪と東京で開催するという。

サブ4に特化したモデルはこれまでほとんどなかった。『S4』は『メタスピード+』のアドバンス版だが、アシックスとしては『S4』で多くの市民ランナーにサブ4を達成させて、信頼を得た後、『メタスピード+』でさらなるタイム短縮を目指してほしいと計算しているだろう。市民レースが続々と復活するなかで、アシックスは他社がさほどアピールしてこなかった場所からからシェアを奪いにいく。