たくさんの力を巻き込んでいくために

このように、メンバーは、リーダーのビジョンに共感することから熱狂の輪に加わっていくことになります。リーダーのビジョンではなく、自分のビジョンに向かっていくべきではないのか、と思われるかもしれません。

しかし私は、誰もがビジョンを持たなければいけないわけではないと思います。楽しい未来を思い描いて周囲に伝えることが上手な人もいますが、そうではない人もいます。

誰かのビジョンに共感するのであれば、飛び込んでみる。それが自分のビジョンを見つけるきっかけにもなります。

リーダーが一人でできることは限られています。ビジョンを実現させるのは、それを思い描いた本人ではなく、後に続く人たちです。

周囲の人を巻き込んでいくためには、リーダー自身が熱狂して描くビジョンが必要です。リーダーは、頭の中の真っ白なキャンバスに自分の未来を大きく描きます。

そして、その実現に必要な人物を洗い出して、その登場人物がどんなことに興味・関心を持っているかを理解する。

その上で、「この人はどんなコミュニケーションを取れば絵の中の登場人物として活躍してくれるのか」を考えながら巻き込んでいきます。

ランダムスプラインのクローズアッププレクサス、コンピュータが生成しました。技術的背景の 3D レンダリング
写真=iStock.com/noLimit46
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「得」と「徳」を与えられる存在に

自分のビジョンをベースに「信頼」と「共感」で人を集める。しかし、理想だけで人は動きません。より直接的な行動の理由や、チームの動きが結果に結び付くという納得感が必要です。ここでは、それら両面にアプローチするための方法を考えます。

一つ目は、「得」と「徳」について。

まずは「得」です。一生懸命働いて見返りがないのでは、メンバーは付いてきません。金銭的な部分や自己成長など、「この人と一緒にいればたくさんのことを得られる」と思ってもらうことが、チームの団結には不可欠です。

一方で、「徳」も大切です。個人的な私利私欲や短期的な利益のためであれば、人の心は動きません。あるいは、チームのメンバーが損得だけで競争し合うことにもなりかねません。

誰もが自分の人生という限られた時間を、意義を感じられることに使いたいと感じています。「この人を応援することが、世の中のためになる」と感じられる人に、人は集まります。

また、当然、人として正しくない行いはしない、困っている人を助けるといった姿勢を見せることも大事です。

ここで言う「徳」とは、「崇高な人になれ」「私欲を持つな」ということではありません。「チームをまとめるために合理的であれ」ということです。

「得」が全てと考える人と「徳」を大事にする人の差は、捉える時間軸の違いです。自分一人でいくら頑張っても、できることは限られています。短期的な「得」だけで集まった人は、「徳」がなければいずれ離れていってしまいます。

それに、幸せになるためには、人との繋がりや人への貢献が必要です。タバコやお酒より、「孤独」が体に悪いともいわれています。いくらお金を稼いでも、一人では幸せを感じることができません。

未来を見据え、社会という大きな視点で自分の幸せを捉えた中での「得」。それを「徳」と呼ぶのだろうと思います。

人として正しく生きることが、多く得られることになり、結局は幸せに生きるということに繋がるのでしょう。