ロシアによる侵攻が始まって数カ月間で、ウクライナでは多くの武器を持たない一般市民が犠牲になった。現地で取材したジャーナリストの佐藤和孝さんは「スマートフォンを略奪したロシア兵もいた。情報戦で出遅れたロシア軍はネットで投稿できたりGPS機能が使えたりする市民のスマートフォンを恐れたのではないか」という――。
※本稿は、佐藤和孝『ウクライナの現場から』(有隣堂)の一部を再編集したものです。
侵攻開始から3カ月間残虐行為が多発した
首都キーウ攻略を諦めると、ロシア軍は東部のドネツク州、ルハンシク州の制圧に乗り出した。両州の北西部にあるハルキウ州の州都ハルキウは、キーウに次ぐウクライナ第2の都市である。一度はロシア軍に制圧されたが、5月中旬には奪還に成功している。
ハルキウでもロシア軍の残虐行為が、4月7日にハルキウ州検察から報告された。住民3名を拷問した上、証拠隠滅のために焼き払ったという。市民虐殺の実態が次々と報告されたイルピン、ブチャ撤退から間もない頃である。ロシア軍のこうした残虐行為は、この4月上旬ころまでがもっとも多く明らかになっている。
情報戦に遅れたロシア軍はスマホを恐れたのか
拷問するということは、何か情報を引き出そうとしているはずだ。一般住民になぜそんなことが必要なのか。これは私の想像だが、スマートフォンの普及がその一因になっていると考えている。情報戦で後れをとって短期決戦に失敗したロシアは、ロシア軍の位置情報をウクライナ軍に渡していると疑った人間を、市民でも容赦なく拷問したのではないか。現代の戦争で意外にも大きな脅威が、スマホなのかもしれない。盗聴リスクはもちろん、GPS機能などで部隊の布陣特定などが簡単にできる。一般市民がロシア軍を撮影してSNSに投稿するだけでも、様々な情報が公にさらされてしまうのである。
略奪するロシア兵がスマホで母国の家族に電話していた話なども含め、スマホをどう管理し、逆に言えばどう情報戦のツールとするかが大切な時代になったと痛感した。
私たち映像メディアのジャーナリストも、今ではテレビの現場レポートならスマホで十分だ。昔なじみの大きなテレビカメラは必要ない。中継がすべてスマホでできてしまうのだ。たったここ数年のことである。