大手地銀も富裕層ビジネスを強化

メガバンクだけでなく、地銀も負けていない。2023年2月、静岡銀行は、マネックス証券と業務委託契約を締結した。富裕層向けIFA専業会社のマネックスPBとマネックス証券が連携して、静岡銀行の富裕層顧客に資産運用提案などを行うという。

西日本シティ銀行では、2021年11月、「天神ビジネスセンター」に西日本シティTT証券とともに、豪華な富裕層向けのラウンジを設けるなど、富裕層取引の拡大を目指している。

このようにスイスの老舗プライベートバンクと提携したり、グループ内での連携を強化したりして金融商品やサービスを増やし、豪華なラウンジを用意するなど、邦銀による富裕層ビジネスを強化する動きが盛んではある。

筆者は、富裕層向け資産運用アドバイザーや金融コンサルタントの立場で、四半世紀にわたり、数多くの国内外の富裕層と接してきた。

その経験を踏まえて言えば、今回も邦銀の富裕層ビジネスはうまくいかない可能性が高いのではないか。なぜなら、バブル期以降、何度も今回と同じような試みが繰り返されているからだ。新たな提携や組織の立ち上げや金融商品・サービスを揃え、人員を増やすだけで成功する甘い世界ではない。そのことを邦銀は根本的にわかっていない。

最大の敗因となる可能性が高いのは、彼らが肝心の富裕層の特性をよく理解していないことにある。具体的には、①そもそも富裕層は自らを開示しない、②コロコロ変わるは論外、③時間泥棒が大嫌い、という3点だ。

そもそも富裕層は開示しない

富裕層はそもそも自分の情報を開示しないのは、家族構成や金融資産をベラベラ話しても得することはないと経験上、知っているからだ。昨今の「ルフィ事件」など特殊詐欺事件の影響もある。考えてみれば当たり前ながら、例えば、富裕層がふらりと訪問したルイ・ヴィトンやレクサスといった高級ブランド店舗の担当者に、開口一番、根堀り葉堀り、家族構成や保有資産を聞かれることはない。

ところが、銀行における富裕層との面談の際は違う。営業担当者は、行内研修でそう習ったのか、面前の顧客とマーケットの話題や金融商品の提案よりも、家族構成や資産構成などを聞かなくては、と気をとられてしまい、本末転倒な面談や顧客対応になってしまっている。

面談で質問する人
写真=iStock.com/mapo
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そのような面談で、「家族構成が聞き出せ、親密になれた」と記された営業担当者の日報は、支店長には評価されるかもしれないが、富裕層の心を掴み、取引に繋げることは難しいだろう。

本人確認など銀行としての縛りがあるのは理解できるものの、富裕層はそもそも開示しないので、必然的に、富裕層顧客の金融資産の全体像も把握できないことになる。

このため、例えば、比較的リスクの低い債券から、米国株ファンドへの乗り換えを提案しても、実は、他行では既に日本株ファンドを保有しており、金融資産が株式ばかりでバランスを欠いたものになる、といったミスマッチが起こることになる。

個々の銀行で行われている資産運用提案は、金融資産の全体像を反映しない飛車角落ちの提案になっているケースが多く、富裕層にとっては的外れである可能性が大なのだ。