内村鑑三の影響を受けた総長ならではの式辞
「汝の車輪を星につなげよ」というのは、19世紀アメリカの作家・思想家、ラルフ・ワルド・エマーソンの『社会と孤独』(1870年)に見られる「君の馬車を星につなげ」(Hitch your wagon to a star.)という有名な言葉を踏まえたものと思われますが、要は大きな目標をもって進めといった意味です。エマーソンは無教会主義の先導者でもあり、内村鑑三はその影響を受けていましたから、内村の薫陶を受けた矢内原忠雄もその著作に早くから親しんでいたのでしょう。
それにしても、なんと力強い、なんと格調の高い式辞でしょうか。弱者のため、虐げられた者のために「高貴なる人生」を歩むことを呼びかける総長の言葉は、70年を経た今でもなお新鮮な訴求力をもって響いてきます。「学力が未熟であり、人間としても幼い」と言われた新入生たちも、ノブレス・オブリージュの精神を鼓舞するこの理想主義の言説に魂を揺さぶられ、成長への志を新たにしたにちがいありません。