「何が何でも3月中に」JAXAの危機感

例えば、JAXAの開発には、役所の文化が根強く残っている。

役所の予算編成に合わせる「年度縛り」もそのひとつだ。

H3の初号機は、2020年度に打ち上げる予定だったが、2度にわたって延期した。

新規開発の高性能エンジン「LE9」の開発にてこずったためだ。

政治家や産業界からは不満や批判が続出していた。これ以上遅らせてはならないという危機感がJAXAや文科省の間で高まっていた。

このため2022年度中、つまり今年3月中に何が何でも打ち上げを成功させねばならない、それを超えると23年度になってしまう、という焦りがあったとみられる。しかも、地元の漁協などとの調整から、打ち上げは「3月10日まで」という締め切りもあった。

JAXAは2月17日にH3を打ち上げようとしたが、直前に技術トラブルが発生し、中止した。原因解明と対策に時間を要したが、「3月10日まで」を死守することを、記者会見で何度も強調した。2023年度になることを避けたいということだろう。

再度設定した打ち上げ日は、年度縛りに収まる3月7日だったものの、失敗に終わった。

このあたりの経緯や、組織の体質や対応、JAXAと三菱重工との協力関係や責任分担などを今後検証する必要があるのではないか。

失敗原因を解明、対策をほどこした後は、前回の「H2A」6号機失敗の時のように長期間止めることなく、なるべく早く、打ち上げを再開する必要もある。

ロケット
写真=iStock.com/3DSculptor
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SNSでは成功したと勘違いする人が続出

巨費をかけてロケットを開発するのは、他国に依存することなく、自国の衛星を必要な時に打ち上げる手段を保有するためだ。

鈴木教授は「日本では夢とロマンが強調され、何のためにロケットを打ち上げるかについて、ふわっとした議論しかしてこなかった。H3をどういうロケットにすべきかという議論や説明も不足していた。本当の意味で使えるロケット、衛星を運ぶロケットとしての開発をしてこなかったのではないか」と苦言を呈する。

そうした影響か、ロケットに対する見方は揺れが大きい。

2月17日の打ち上げ直前中止をめぐって、JAXAは「止めることができたので失敗ではない」と説明をした。だが、会見に参加した記者が「それは一般に失敗という」と発言。これを引き金に、SNSで「失敗」「失敗ではない」をめぐって、喧々諤々の議論になった。

3月7日の打ち上げでは、晴れた空の下、H3は地上からきれいに打ち上がり、補助ロケットの切り離しも成功した。だが、すぐにロケットの速度はどんどん下がっていった。第2段エンジンが着火しなかったためだ。

JAXAの打ち上げ中継で「指令破壊信号を送信しました」というアナウンスが流れた直後に、SNSを見て驚いた。「H3成功」の話で盛り上がっていたからだ。

地上から機体が離陸したのを見て、成功したと思った人が多かったのだろう。「打ち上げ成功」「おめでとう!」などのツイートがさかんに流れていた。