スペースXは61回成功し、日本はゼロ

今回の失敗によって、日本の宇宙開発は苦境に立たされた。

打ち上げ市場への参入はもちろん、情報収集衛星など国の安全保障にかかわる衛星、米国主導の有人月探査「アルテミス計画」で使う物資輸送機、火星の衛星の探査機など、H3による打ち上げ予定は詰まっている。今後、その調整や見直しが必要になる。

JAXAや文部科学省は原因調査を開始したが、原因を突き止め、対策をほどこし、試験でそれを確かめる、など一連の作業にはかなり時間がかかる。

2003年に情報収集衛星2基を搭載した「H2A」6号機の打ち上げが失敗した時には、再開まで1年3カ月を要した。

時間がかかればかかるほど、H3の開発費は膨れ、世界相場並みの50億円達成はどんどん遠のいていく。

今、世界の宇宙開発は拡大期にある。2018年以降、世界のロケット打ち上げ成功数は大きく増加している。

内閣府の調べによると、2022年は過去最大の177回で、直近10年間で年率9.7%と大幅に伸びた。

打ち上げ成功数は米国が最も多く83回。うち75回が民間企業によるもので、その61回はスペースXのロケットだった。

成功数が次に多いのは中国で62回、次はロシアで21回だった。

一方、日本は成功ゼロだった。世界で存在感を発揮できない中で、さらに追い打ちをかけるH3失敗。日本は世界から取り残され、埋没していく恐れがある。

成功にこだわっていると市場で勝負できない

今、ロケット打ち上げ市場をリードしているのは、米スペースXだ。

2000年代初頭に宇宙ベンチャー企業として頭角を現し、低価格の「価格破壊ロケット」で、商用打ち上げ市場を席巻するようになった。

スペースXは、ロケットが爆発炎上する派手な失敗もよく起こすが、淡々と対策をほどこし、すぐに次の打ち上げを再開する。

国の研究開発法人のJAXAは、先端技術と完璧さを目指し、それを成し遂げてから打ち上げ市場への売り込みを図ろうと考える。一方、スペースXは走りながら完成度を高めていく。

国費で開発する研究開発法人と、米ベンチャー企業との発想の違いだろうが、日本とは対極的だ。

鈴木教授は「日本には打ち上げを失敗してはいけないと考える文化がある。一度失敗すると二度と失敗しない仕組みを作ろうとする。だが、それによってコストが膨張し、納期が遅れ、打ち上げ市場で勝負できなくなる。一方、スペースXは『失敗なしに成功はない』と考え、失敗しても素早く機敏に開発をしていく。打ち上げ市場でこうした企業と戦おうというのなら、日本でも失敗を許す文化が必要だ」

これまで日本は「H2」「H2A」と大型ロケットを開発したが、市場参入に成功とはいいがたい状況だった。

H3でロケットの価格を半減させて打ち上げ市場参入を目指す、と掲げた以上、日本も今までのやり方を見直す必要があるだろう。