パランティアは長らく謎の企業だった。なぜなら、顧客の多くは治安維持や諜報を担当する公的機関だからだ。一番の顧客はアメリカ国防省で、対テロ戦のデータ分析にパランティアを活用する。11年、米特殊部隊がアルカイダのウサマ・ビンラディンを急襲して殺害したが、居場所の特定にはパランティアが使われたのではないかと噂になった。その後も世間に広く知られることはなかったが、今、再びその存在が注目され始めている。ウクライナの対ロシア戦で大活躍しているからだ。

パランティア対ロシア軍の戦い

開戦当初、ロシア軍が首都キーウまで進軍した。しかし、その後、ウクライナが戦線を押し戻した。要因として西側諸国による兵器の供与があげられているが、兵器が有効に使われるよう作戦を立案したのは、アメリカ国防省が提供したパランティアとそれを使うスタッフだった。たとえばタンカーの積み荷までデータを収集して、それをもとに兵站へいたんを分析し、どこをいつ攻撃すればロシア軍を撃退できるかというレベルまで情報を弾き出す。ウクライナ軍の兵士は、その指示通りに動く。実質的に、パランティア対ロシア軍の戦いなのだ。

最新のAIを使うウクライナに対して、ロシアの意思決定は感情的でアナログだ。AIにかなうはずがない。

現在のところ、プーチンがアナログな「悪の帝国」の親玉であり、パランティアはそれを止めるテクノロジーの旗手という構図になっている。しかし、テクノロジーは常に正しい側の味方をするとは限らない。たとえば16年のアメリカ大統領選では、ケンブリッジ・アナリティカという選挙コンサルティング会社がデータ分析して対抗馬を蹴落としトランプ氏を勝利に導いた。同社はデータの不正取得のほか、ロシアの関与が疑われて倒産している。テクノロジーは「悪の帝国」の手先にもなりうるのだ。

立派な看板を掲げているOpenAIだが、はたしてChatGPTはどちらに加担することになるのか。引き続き注視したい。

(構成=村上 敬 写真=AFP=時事)
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