ポル・ポト、文化大革命につながる思想

物語内容に話を戻すと、科学技術や資本主義を象徴する神羅カンパニーが敵なのは序盤だけで、後半はセフィロスという男との対決が主題となる。

セフィロスは、地球を救うために、人類を滅ぼしてしまおうとしている。この、セフィロスとクラウドの対立に象徴される思想的葛藤は、どのようなものだろうか。

セフィロスは、自分を「古代種」だと勘違いしているが、本当は人体実験で産み出された存在だ。ジェノバと呼ばれる宇宙生命体の細胞を人工的に植えつけられた科学の産物で、ジェノバを母と呼ぶ。自らを産み出した科学技術に憎悪を覚え、母胎回帰願望を強く持っている。

これは、「科学・文明」を否定し、「自然・生命」に帰ろうとする『ファイナルファンタジーVII』のベーシックな思想に近く、科学技術の産物であるゲームにおいて自然や過去への回帰を描く本作のねじれの負の部分を体現した思想である。

クラウドたちは、後半では、このような科学・人類を抹消し、母胎に回帰したいという極端なロマン主義の思想と対峙たいじすることになる。これはどのように解釈すればよいだろうか。

科学技術をなくして昔に回帰すればよいという思想は、歴史的に何度も現れている。たとえば、神羅カンパニーの一員であるハイデッカーというキャラクターの名前が示唆する、ドイツの哲学者マルティン・ハイデッガー。

セフィロスは「古代種」が地上の栄光を得ていた過去を取り戻すべく、人類を抹殺しようとしているが、過去に戻れば栄光があるというのは、ナチス・ドイツに大きな影響を与えたドイツ・ロマン主義の考え方でもある。それはレトロトピア幻想(未来に希望を見いだせず、過去に理想世界があるとする考え方)とも非常に近いものだ。

藤田直哉『ゲームが教える世界の論点』(集英社新書)
藤田直哉『ゲームが教える世界の論点』(集英社新書)

科学や技術、都市生活をなくしてしまえばいいと考えて実行した権力者も多数いる。カンボジアのポル・ポトは都市から農村へ人々を移住させ、それに前後する争いや飢餓などで数百万人が死に、国の人口が3分の1になったと言われている。

中国でも、中国版カウンターカルチャーだと言える文化大革命が起こり、数百万人から数千万人が亡くなったとされている。

『ファイナルファンタジーVII』が作られたのは、このような「カウンターカルチャー」的な思想の帰結が無視できなくなった時代である。

だから、セフィロスと、クラウドたちの対決は、このような20世紀の悲劇的な思想との対決を含意しているのだとも解釈することが可能だろう。

福島第一原発事故の影響

本作、特にリメイク版では、テロの結果の一般人の被害が甚大であることも、明確に描かれている。葛藤と痛みも描写される。悪の企業である神羅カンパニーで働いている一般人たちの生活や姿も詳細に描き、プレイヤーに罪悪感を深く覚えさせるように作られている。

これは、福島第一原発事故後の、科学や自然をめぐる対立や分断が意識されているのだろう。冒頭で行われる魔晄炉の爆破のような、過激で暴力的な抵抗の是非を問うという主題系が、より強調されているのだ。

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