橋下徹氏は「マスクを外す強い指導」を主張するが…

調査当時、座学の時間にマスクを外していいと指導を受けた児童は6%程度と少ないことから、こうした指導は一般的な基準からみて「強すぎる指導」に該当するだろう。おそらく、子どもは大人の着脱動向なども勘案しながらマスクについて判断しており、「大人もやっていないことをする」ように指導されることに拒否感をもったのかもしれない。「大人はオフィスでマスクを着けて仕事しているのに、なぜ私は国語の時間にマスクを外せとイチイチ言われないといけないの?」というわけだ。また、心理的に、当時の標準から逸脱した指導に対して違和感を持った可能性も考えられる。

感染対策を緩めるにしても「どれくらい緩めるのか」についてのコンセンサスが現時点ではないように見えることから、この点は特に注意したい。例えば、マスクに関する強硬派の意見として、橋下徹氏は2023年1月の報道番組で「大人の議論よりも子どもですよ。メリット、デメリット比較すれば、マスクなしの教育の方が圧倒的にメリットあるし、マスクした教育の方がデメリット大きいから、そこは強烈な要請、指導が必要だと思います」と述べている(参考4)。

しかし、解析結果から判断すると、橋下氏の言うような「強烈な要請、指導」が必要と考える大人・指導者が仮に多かったとしても、「教育だから」という理由で、大人もやっていないことを子どもに半ば強制する事態にならないよう注意する必要はあるだろう。一部の子どもたちには逆効果になってしまう可能性もある。

ランドセルを背負って学校に行く娘にマスクを装着させる母親の手元
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黙食を止めると脱マスクのナッジになる

マスクに関する指導は場合によっては逆効果になりうるという発見と対照的なのは、黙食の廃止だ。黙食の廃止は、「マスク」と明示することなく児童が自然にお互いの笑顔を確認することになるので、「マスクを外させるナッジ」になっている側面がある。実際に、黙食を廃止した学校では「マスクを外したい」という意向が大きく強まるようだった。黙食は大人が全く実施していないこともあり、マスクの場合と異なり逆効果になることもなかった。こうした結果の傾向は、学年(小中高)や男女でも一貫して見られており、どの属性の子どもでも同じだった。