少女は熊に育てられ、人間性をすっかり失っていた
昭和3年、オリンポス山で名高いウルダー山中で、生後間もない乳児が行方不明になった。大捜索を行ったが、子どもの行方は分からず、熊の餌食になったのだろうとあきらめていた。
9年後、猟師の一隊がとある森で一頭の大きな牝熊を発見し、射殺した。すると、熊の死体の陰から、真っ裸の少女が現れ、歯をむき出して猟師達に飛びかかった。
猟師たちはその子供をなんとか「生け捕り」にして村へ連れ帰ったが、この子供こそ9年前にウルダー山中で消息を絶った乳児だった。
この少女は9年もの間熊に育てられ、人間性をすっかり失っていた。子熊のように唸り声を発し、人間が近づくと爪を立て、歯をむいて飛びかかったという。
彼女はのちにイスタンブールの精神病院に収容され、熊から人間に生まれ変わる日を静かに待っている。(「北海タイムス」昭和12年7月29日「9年間熊と育つ 女ターザン出現 乳呑児時代にさらわれる」を要約)
まさに「カマラとアマラ」を彷彿とさせる事件である。
「カマラとアマラ」は、インド東部ベンガル地方ミドナプールの孤児院に引き取られた姉妹で、「狼に育てられた野生児」として知られている。一説には2人は精神疾患だったともされている。
動物が人間の子供を育てることは、母乳の成分が違ったり、行動学的に無理があるなど、生物学的な理由で不可能というのが定説である。
しかしこれらの事件を見る限り、ヒグマが人間の子供を慈しみ、育てようと試みることは、あるのかもしれない。