胃がん罹患率は世界基準の3倍だが…

一般的にアメリカが秀でた先端医療を持つという印象がありますが、日本の医療も負けていません。技術面で最先端の優れた部分が数多くあります。

筆者の専門である消化器内視鏡を例にとってみましょう。消化器内視鏡は実は日本発祥の医療技術であり、間違いなく日本が世界一と言える分野の一つです。消化器内視鏡機器の世界シェアも、日本のオリンパス、富士フイルム、HOYAで実に9割を占めているのです。

日本の内視鏡技術の高さを物語っているのが、胃がんの罹患率と死亡率の差です。現在の医療では胃がんは早期発見できれば、内視鏡治療により根治できる病気であり、ステージIで発見されれば生存率は98.7%です。これは驚異的な数字です。

ただ、ステージIIでは66.5%、ステージIIIでは46.9%と、発見が遅れると生存率が大きく下がってしまいます。

日本では、胃がんの罹患率は30%と世界全体の11%と比較して3倍近く高くなっています。一方、死亡率は世界基準と同じ8%となっていて、罹患率に比べ死亡率が大きく下回っているのが特徴です。これは胃がんが早期に発見されているために、多くの患者さんが治療を受けて病気から回復していることを意味しています。同じアジアの国の中国では罹患率20%、死亡率16%ですから、日本の内視鏡医療の質の高さがお分かりいただけると思います。

ソファに座って胃の痛みを抱える女性
写真=iStock.com/Piotrekswat
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早期発見には10年間1万件の経験が要る

日本の内視鏡医療の技術は世界でトップレベルです。これは、もともと胃がんの罹患率や死亡率が高かったため、内視鏡機器の進化とともに、診断学が発展してきたという背景があります。

現在、世界的にも胃がんの患者数は増加傾向にあり、内視鏡医療への関心は高まっていますが、これには高い技術と経験が必要になります。

内視鏡は胃や腸の中をカメラで直接見て病気を発見する、という、一見シンプルな医療技術ですが、検査中に早期の胃がんを発見するのは非常に難しいです。早期の胃がんを診断できるようになるには、一般的には10年の経験年数と1万件の内視鏡検査経験が必要と言われています。検査を行う医師の経験によって、診断精度に大きな差が出来てしまうのが実情です。

見逃しのリスクが高いため、胃がん検診では防止のために、専門家が目視でダブルチェックを行っています。一例ですが、筆者が所属している地域の医師会では80名ほどの医師がそれぞれのクリニックや病院の診療後、「時間外労働」でこの膨大な作業をこなしています。質を落とさないためとはいえ、これでは医師の負担がどうしても大きくなってしまいます。